今回は、多くの受験生が「うっ…難しい…」と感じる山場、「物権変動(ぶっけんへんどう)」と「対抗要件(たいこうようけん)」についてです。特に不動産の権利変動における「登記」の役割って、本当にややこしいですよね…!
「不動産の権利は、登記しないと第三者に対抗できない」という基本原則は、なんとなく聞いたことがあるかもしれません。でも、「背信的悪意者には登記がなくても勝てる?」「契約を取り消す前と後で、第三者への対応が変わるの?」「相続で揉めたときの登記の効力は?」「時効で土地を手に入れたけど、登記は必要?」…などなど、具体的な場面になると、例外や細かいルールがたくさん出てきて、頭の中がぐちゃぐちゃになってしまう…なんてこと、ありませんか?
不動産取引では、一つの物件が複数の人の間で取引されたり(二重譲渡)、契約に問題があって取り消されたり、相続が絡んできたりと、権利関係が複雑になることがよくあります。そんなとき、一体誰が本当の権利者として保護されるのか?それを決めるのが「対抗要件」、特に不動産の場合は「登記」のルールなんです。

この記事では、そんな複雑怪奇に見える物権変動と対抗要件について、基本となる「登記主義」の考え方から、試験で頻出の様々なケース(二重譲渡、取消し、解除、相続、時効取得など)における第三者との対抗関係を、一つ一つ丁寧に解きほぐしていきます!
<この記事でわかること>
- 物権変動と対抗要件(特に登記)の基本的な考え方
- 原則として登記がなければ第三者に対抗できない理由(民法177条)
- 例外的に登記がなくても対抗できる相手(無権利者、背信的悪意者など)
- 取消し・解除があった場合の「前」と「後」での第三者との対抗関係の違い
- 相続(共同相続、相続放棄、遺産分割)と登記をめぐる対抗問題
- 時効取得した場合の「完成前」と「完成後」での第三者との対抗関係の違い
- (番外編)動産の対抗要件は「引渡し」であること
物権変動のキホン!「早い者勝ち」の原則と「登記」の重要性
まずは、物権変動と対抗要件の基本中の基本、「なぜ登記が必要なのか?」という点から見ていきましょう。
物権変動って何?まずは基本をおさえよう
物権変動とは、物権(物を直接支配する権利のこと。所有権などが代表例です)が、発生したり、変更されたり、消滅したりすることを言います。
難しく聞こえるかもしれませんが、例えば、
- AさんがBさんに土地を売る(所有権の移転=変更)
- Cさんが建物を新築する(所有権の発生)
- Dさんが借金の担保に土地に抵当権を設定する(抵当権の発生)
- Eさんが抵当権付きのローンを完済して抵当権がなくなる(抵当権の消滅)
これらはすべて物権変動です。宅建試験では、特に不動産の所有権が誰から誰に移ったか、そしてその結果、誰が本当の所有者として権利を主張できるか、という点が重要になります。
不動産取引のルール:原則は「登記」を先に備えた方が勝つ!
不動産、特に土地や建物は高価な財産ですよね。誰がその権利を持っているのかがはっきりしていないと、安心して取引することができません。
そこで登場するのが「登記(とうき)」という制度です。
不動産の登記とは、その不動産がどこにあって、どんな大きさ・種類で、誰が所有者で、どんな権利(抵当権など)が付いているか、といった情報を、法務局という国の機関が管理する公の帳簿(登記簿)に記録し、誰でも見られるように(公示)する制度のことです。
そして、日本の民法では、不動産に関する物権変動(権利の得喪・変更)について、「登記をしなければ、第三者に対抗することができない」と定めています(民法第177条)。
これが、不動産取引における対抗要件主義(登記主義)という大原則です。
どういうことか、典型的な「二重譲渡」の例で見てみましょう。
<二重譲渡の例>
悪質な売主Aさんが、自分の土地をまずBさんに売り、さらに同じ土地をCさんにも売ってしまったとします。この場合、買主Bさんと買主Cさんのどちらが、その土地の所有権を法的に主張できるのでしょうか?
答えは、「先に所有権移転登記を備えた方」です。
- もしCさんがBさんより先に登記を済ませたら、たとえBさんの方が先に契約していたとしても、Cさんが有効に所有権を取得し、Bさんに対して「この土地は私のものだ!」と主張できます。BさんはCさんに対抗できません。
- 逆に、BさんがCさんより先に登記を済ませたら、Bさんが所有権を主張でき、Cさんは対抗できません。
まさに「早い者勝ち」(登記を先に備えた者勝ち)のルールなんです。契約の順番や、代金の支払いの有無などは原則として関係ありません。不動産の権利変動は、登記という公の方法で公示して初めて、当事者以外の第三者にもその効力を主張できるようになる、という考え方に基づいています。
「対抗できない」というのは、当事者間(例えばAさんとBさんの間)では売買契約は有効でも、登記を備えていない限り、第三者(Cさん)に対して「自分が所有者だ」と主張することが法的に認められない、という意味です。
例外アリ!登記がなくても対抗できる相手とは?
「登記がなければ第三者に対抗できない」のが大原則ですが、どんな相手に対しても絶対に登記が必要かというと、実はそうではありません。例外的に、登記を備えていなくても、自分の権利を主張できる相手がいます。
民法177条でいう「第三者」とは、「当事者もしくはその包括承継人(相続人など)以外で、登記の欠缺(けんけつ:登記がないこと)を主張する正当な利益を有する者」と解釈されています。つまり、登記がないことを主張するだけの正当な理由がない相手に対しては、登記がなくても対抗できる、というわけです。
具体的には、以下のような相手が挙げられます。
- 無権利者:何の権利も持っていない人。例えば、登記名義だけを勝手に移しただけの人や、他人の土地に不法に建物を建てて占拠している不法占拠者などです。これらの人に対しては、真の権利者は登記がなくても「出ていけ!」「所有権は私にある!」と主張できます。
- 不法行為者:詐欺や強迫によって登記名義を得た人など、権利取得の過程に違法性がある人。
- 背信的悪意者(はいしんてきあくいしゃ):これはちょっと難しい概念ですが、単に事情を知っている(悪意)だけでなく、登記がないことを利用して真の権利者を害そうとするなど、自由競争の範囲を逸脱するような著しく信義に反する態様で登記を得た者を指します。
- <注意> 単なる悪意者(例えば、AさんがBさんに土地を売ったことを知っていながら、Aさんから二重に買い受けて先に登記したCさん)に対しては、登記がないと対抗できません。自由競争の範囲内と考えられるからです。「悪意」に加えて「背信性」が必要という点がポイントです。
- 上記の無権利者や背信的悪意者から権利を取得した者(転得者):これらの人も、元の権利者に登記がないことを主張する正当な利益がないと考えられるため、登記なくして対抗できます。
なるほど!登記がないことを主張するのがズルいような相手には、登記がなくても勝てる、ってことですね。でも、「背信的悪意者」かどうかは判断が難しい場合もあるので、原則は登記!と覚えておくのが大事ですね。
その他、当事者やその包括承継人(相続人など)も「第三者」には当たりません。例えば、売主に対しては、買主は登記がなくても所有権を主張できますよね。また、後のケーススタディで詳しく見ますが、相続人も原則として登記なくして権利を主張できる場面があります。
ケース別徹底研究!登記をめぐる様々な対抗問題【取消・解除・相続・時効】
ここからは、宅建試験でよく問われる具体的な場面を取り上げて、登記をめぐる対抗関係がどうなるのかを詳しく見ていきましょう。「前」と「後」で結論が変わるケースが多いので、時系列を意識するのがポイントです!
【ケース1】契約が取り消された!取消し前後の第三者との関係
まず、詐欺や強迫、錯誤などを理由に、一度有効に成立した売買契約が「取り消された」場合の対抗問題です。
前提となる考え方
- 取消しの効果: 取り消された契約は、初めから無効であったものとみなされます(民法121条)。つまり、権利は元々持っていた人に遡って戻ります。
- 第三者保護規定: ただし、詐欺(民法96条3項)や錯誤(民法95条4項)による取消しは、善意でかつ過失がない第三者に対抗することができません。強迫による取消しにはこの第三者保護規定はありません。
これを踏まえて、「取消し前」と「取消し後」に第三者が現れた場合を見てみましょう(ここでは詐欺による取消しを例にします)。
(1) 取消し「前」の第三者
事案: AがBに騙されて土地を売却(①)。Bがその土地を、Aが取り消す前に、詐欺の事実を知らないCに転売した(②)。その後、Aが詐欺に気づき、AB間の契約を取り消した(③)。
- 考え方: Cさんが登場した時点(②)では、AB間の契約はまだ取り消されておらず有効です。Aさんが取り消す(③)ことで、その効果をCさんに主張できるか、という問題になります。
- 結論: 第三者Cさんが、詐欺の事実について善意かつ無過失であれば、AさんはCさんに対して取消しを対抗できません。つまり、Cさんが所有権を取得します。Cさんが悪意(知っていた)または有過失(不注意で知らなかった)であれば、Aさんは取消しを対抗でき、土地を取り戻せます。
ここでの保護要件は「善意無過失」です! 登記の有無は関係ありません。善意無過失でありさえすれば、たとえCさんが登記を備えていなくても保護されます。
(2) 取消し「後」の第三者
事案: AがBに騙されて土地を売却(①)。Aが詐欺に気づき、AB間の契約を取り消した(②)。しかし、登記がBに残ったままなのをいいことに、Bが事情を知らないCにその土地を売却し、Cが登記を備えた(③)。
- 考え方: Aさんが取り消した時点(②)で、土地の所有権は理論上Aさんに戻っています。しかし、その後BさんがCさんに売却(③)したため、あたかもAさんとCさんの間で二重譲渡があったかのような関係になります(A→B→A と B→C)。
- 結論: この場合は、対抗要件(登記)の問題として扱われます(民法177条)。つまり、AさんとCさんのうち、先に有効な登記を備えた方が勝ちます。Cさんが先に登記を備えれば、たとえAさんが先に取り消していても、Cさんが所有権を主張できます。この場合、Cさんの善意・悪意は原則として問いません(ただしCが背信的悪意者なら別)。
- 取消しの「後」は、登記の早い者勝ち!と覚えましょう。
<取消し前後の第三者との対抗関係 まとめ表>
時系列 | 問題となる状況 | 結論 | 保護要件/決め手 | 根拠条文等 |
取消し前 | 取消権者が取り消す前に第三者が現れた場合 | 第三者が善意無過失なら保護される | 善意無過失 | 民法96条3項等 |
取消し後 | 取消権者が取り消した後に第三者が現れた場合 | 先に登記を備えた方が保護される(二重譲渡類似) | 登記 | 民法177条 |
【ケース2】契約が解除された!解除前後の第三者との関係
次に、債務不履行(例えば、買主が代金を支払わない)などを理由に、契約が有効に成立した後に「解除された」場合の対抗問題です。取消しと似ていますが、ルールが少し異なります。
前提となる考え方
- 解除の効果: 解除されると、各当事者は相手方を原状回復させる義務を負います(民法545条1項本文)。つまり、権利関係を契約前の状態に戻します。
- 第三者保護規定: ただし、解除は、第三者の権利を害することができない、とされています(民法545条1項ただし書)。この「第三者」の範囲と保護要件が問題になります。
(1) 解除「前」の第三者
事案: AがBに土地を売却し引き渡したが、Bは代金を支払わない(①)。Bが代金を支払わないうちに、その土地をCに転売し、Cが登記を備えた(②)。その後、AがBの債務不履行を理由にAB間の契約を解除した(③)。
- 考え方: Cさんが登場した時点(②)では、AB間の契約はまだ解除されておらず有効です。Aさんが解除する(③)ことで、その効果(原状回復)をCさんに主張できるか、という問題です。
- 結論: 民法545条1項ただし書の「第三者」として保護されるためには、第三者Cさんが対抗要件(不動産の場合は登記)を備えている必要があると解釈されています(判例)。つまり、Cさんが登記を備えていれば、たとえAさんが解除しても、AさんはCさんに対抗できず、Cさんが所有権を取得します。Cさんが登記を備えていなければ、Aさんは解除を対抗できます。
ここでの保護要件は「登記」です!取消し前の「善意無過失」とは異なります。判例では、第三者の善意・悪意は問わないとされています。つまり、CさんがBの債務不履行(解除の原因)を知っていた(悪意)としても、登記さえ先に備えれば保護されるのです。
(2) 解除「後」の第三者
事案: AがBに土地を売却したが、Bが代金を支払わないため、AがAB間の契約を解除した(①)。しかし、登記がBに残ったままだったため、Bがその土地をCに売却し、Cが登記を備えた(②)。
- 考え方: Aさんが解除した時点(①)で、所有権はAさんに戻っています。その後のBさんからCさんへの売却(②)は、これも取消し後と同様、二重譲渡類似の関係になります。
- 結論: やはり対抗要件(登記)の問題となり、AさんとCさんのうち、先に有効な登記を備えた方が勝ちます(民法177条)。Cさんの善意・悪意は原則問いません。
解除の「後」も、登記の早い者勝ち!取消し後と同じ考え方です。
<解除前後の第三者との対抗関係 まとめ表>
時系列 | 問題となる状況 | 結論 | 保護要件/決め手 | 根拠条文等 |
解除前 | 解除権者が解除する前に第三者が現れた場合 | 第三者が登記を備えれば保護される(善意悪意問わず) | 登記 | 民法545条1項但 |
解除後 | 解除権者が解除した後に第三者が現れた場合 | 先に登記を備えた方が保護される(二重譲渡類似) | 登記 | 民法177条 |
【ケース3】相続が発生!相続と登記をめぐる対抗問題
相続が絡むと、権利関係はさらに複雑になります。ここでは3つのパターンを見ていきましょう。
(1) 共同相続と第三者
事案: Aが亡くなり、相続人である子BとCが土地を共同相続した(法定相続分は各1/2)。遺産分割協議をする前に、CがBに無断で、自分の相続分だけでなくBの相続分まで含めて、土地全部についてC単独名義の相続登記をし、第三者Dに売却してD名義の登記もしてしまった。
- 考え方: 相続開始と同時に、被相続人Aの権利義務は包括的に相続人B・Cに承継されます(民法896条)。土地はBとCの共有状態(各持分1/2)になります。Cが勝手にBの持分まで登記・売却した行為は、Bの持分に関しては無権利な行為です。
- 結論: 相続人Bは、自己の法定相続分(この場合は1/2)については、登記がなくても、第三者Dに対して「その部分は私のものだ!」と対抗できます。Dは、無権利者Cから譲り受けたBの持分に関しては、たとえ登記を備えていても権利を取得できないからです。
自分の相続分は、勝手に売られても当然に取り戻せる、ということですね。登記は関係ありません。
(2) 相続放棄と第三者
事案: Aが亡くなり、相続人は子BとC。Cは家庭裁判所で相続放棄の手続きをしたため、Bが土地を単独で相続することになった。しかし、Bが単独相続の登記をする前に、相続放棄したはずのCが、あたかも自分が相続したかのように装い、元々の自分の法定相続分だった1/2に相当する持分を第三者Dに売却し、Dが登記を備えてしまった。
- 考え方: 相続放棄をした者は、初めから相続人とならなかったものとみなされます(民法939条)。つまり、Cさんは土地について全く権利を持たない無権利者です。
- 結論: 無権利者であるCから権利を譲り受けたDも、たとえ登記を備えていたとしても、真の権利者であるBに対しては対抗できません。Bは、登記がなくても、土地全部の所有権をDに主張できます。
(3) 遺産分割と第三者
事案: Aが亡くなり、相続人BとCが土地を共同相続(各持分1/2)。その後、BとCで遺産分割協議を行い、「この土地はBが単独で取得する」と決まった。しかし、Bがその旨の登記をする前に、遺産分割で権利を失ったはずのCが、自分の元々の法定相続分だった1/2の持分を第三者Dに売却し、Dが登記を備えてしまった。
- 考え方: 遺産分割の効果は相続開始時に遡りますが(民法909条本文)、判例では、遺産分割による権利変動(例えば、Cの持分がBに移転したこと)を第三者に対抗するためには、登記が必要だと考えています(民法909条ただし書の類推、登記の対抗力(民法177条)の問題として)。
- 結論: Bは、自己の元々の法定相続分(1/2)については、登記なくしてDに対抗できます。しかし、遺産分割によってCから取得した持分(残りの1/2)については、登記を備えなければ、先に登記を備えた第三者Dに対抗できません。
遺産分割は、法定相続分を超える部分については「新たな権利変動」と考えるのがミソです!だから、その部分については登記が必要になるんですね。法定相続分までは登記なしでOK、超える部分は登記が必要、と区別しましょう。
【ケース4】時効で権利を取得!取得時効と登記をめぐる対抗問題
最後に、他人の不動産を長期間占有し続けることで所有権を取得する「取得時効」が完成した場合の対抗問題です。これも「時効完成前」と「時効完成後」で結論が異なります。
(1) 時効完成「前」の第三者
事案: A所有の土地をCが占有開始。Cの取得時効が完成する前に、Aがその土地をBに売却し、Bが所有権移転登記を備えた(①)。その後、Cの占有が継続し、取得時効が完成した(②)。
- 考え方: 時効完成前の第三者Bは、時効取得者Cとの関係では、あたかも元の所有者Aと同じような地位(当事者に近い関係)にあると考えられます。
- 結論: 時効取得者Cは、登記を備えていなくても、時効完成前に現れた第三者Bに対して、時効による所有権取得を対抗できます(判例)。つまり、Cさんが勝ちます。
- 理由:時効制度は、長年続いた事実状態を尊重するものです。時効期間中に所有者が代わったからといって、時効取得できなくなるのは不合理と考えられています。
(2) 時効完成「後」の第三者
事案: A所有の土地をCが占有し、取得時効が完成した(①)。しかし、Cが時効取得による登記をする前に、元の所有者Aがその土地を第三者Bに売却し、Bが所有権移転登記を備えてしまった(②)。
- 考え方: 時効が完成した時点(①)で、土地の所有権は理論上Cに移転しています。その後に元の所有者AがBに売却する(②)というのは、これも二重譲渡と非常によく似た関係になります(A→C(時効取得) と A→B(売却))。
- 結論: この場合は、対抗要件(登記)の問題となり、時効取得者Cと第三者Bのうち、先に有効な登記を備えた方が勝ちます(判例、民法177条)。Bが先に登記を備えれば、Bが所有権を取得し、Cは対抗できません。
時効が完成しても安心できない!すぐに登記しないと、後から現れた第三者に負けてしまう可能性があるんですね!完成前と後で大違いです!
<取得時効完成前後の第三者との対抗関係 まとめ表>
時系列 | 問題となる状況 | 結論 | 決め手 | 根拠等 |
時効完成前 | 時効完成前に元の所有者から第三者が取得した場合 | 時効取得者は登記なくして第三者に対抗できる | – | 判例 |
時効完成後 | 時効完成後に元の所有者から第三者が取得した場合 | 先に登記を備えた方が勝つ(二重譲渡類似) | 登記 | 判例, 177条 |
【番外編】動産の場合はどうなる?引渡しが決め手!
これまで不動産を中心に見てきましたが、最後に「動産」(時計、宝石、車など、不動産以外の物)の物権変動についても触れておきましょう。
動産の場合、対抗要件は「登記」ではありません。「引渡し(ひきわたし)」です(民法178条)。
例えば、Aさんが自分の腕時計を、BさんにもCさんにも売却する契約をした(二重譲渡)場合、どちらが所有権を主張できるでしょうか?
<動産の二重譲渡の例>
Aが腕時計を①Bに売る契約、②Cに売る契約をし、③実際に時計をCに引き渡す
この場合、先に腕時計の引渡しを受けた方が、他方に対して所有権を主張できます。上の図なら、Cさんが引渡しを受けているので、CさんがBさんに対抗できます。契約の順番や代金の支払いではなく、「引渡し」が決め手になるのです。
引渡しには、実際に物を手渡す「現実の引渡し」の他に、すでに相手が持っている場合に意思表示だけで引き渡す「簡易の引渡し」、売主が買主のために占有を続ける意思表示をする「占有改定」、代理人が占有している場合に本人から第三者への意思表示で引き渡す「指図による占有移転」といった種類がありますが、宅建試験では「動産の対抗要件は引渡し」と覚えておけば十分でしょう。
まとめ
今回は、物権変動と対抗要件、特に登記をめぐる様々な第三者との対抗問題について、詳しく見てきました。たくさんのケースが出てきて大変だったかもしれませんが、それぞれの場面での考え方のパターンと結論をしっかり整理することが重要です。
基本は「不動産物権変動は登記がなければ第三者に対抗できない」という民法177条の大原則です。しかし、相手方が登記の欠缺を主張する正当な利益を持たない場合(無権利者や背信的悪意者など)や、取消し前・解除前・時効完成前のように、取引の安全や権利の性質から登記以外の要素(善意無過失や登記の有無)で保護が決まる場面、そして相続のように登記なくして対抗できる範囲がある場面など、様々なバリエーションがありましたね。
- 不動産の対抗要件は原則登記(民法177条)。早い者勝ち!
- 無権利者、不法行為者、背信的悪意者などには登記なく対抗可能。
- 取消し前は第三者が善意無過失なら保護(登記不要)。取消し後は登記で決着(二重譲渡類似)。
- 解除前は第三者が登記を備えれば保護(善意悪意問わず)。解除後は登記で決着(二重譲渡類似)。
- 相続:法定相続分は登記なく対抗可。相続放棄者は無権利者。遺産分割による法定相続分超過部分は登記が必要。
- 時効取得:完成前の第三者には登記なく対抗可。完成後の第三者とは登記で決着(二重譲渡類似)。
- 動産の対抗要件は引渡し(民法178条)。
これらのルールは、一見複雑ですが、なぜそのような結論になるのか(誰を保護すべきか、取引の安全をどう図るか)という理由を考えながら学習すると、理解が深まり記憶にも残りやすくなりますよ。

権利関係の中でも特に難解な分野ですが、ここを乗り越えれば大きな得点源になります!諦めずに、過去問演習などを通して、知識を確実に身につけていきましょう!応援しています!