都市計画法の学習シリーズ、今回は街づくりの具体的なプランが決まる「都市計画の決定」プロセスと、その計画を実現するための「都市計画事業」、そして私たちの身近なルールである「地区計画」について詳しく見ていきましょう!
「都市計画って、結局誰が決めるの?都道府県?市町村?」「計画が決まるまでの手続きって、なんだか複雑そう…」「都市計画事業が始まると、どんな制限がかかるの?」「地区計画ってよく聞くけど、何?」…こんな疑問を持っていませんか?都市計画の決定や事業に関するルールは、手続きが多く、段階によって制限も変わるため、苦手意識を持っている受験生の方も多いかもしれませんね。
でも、大丈夫!街づくりの計画がどのように作られ、実行に移されていくのか、その流れとポイントをしっかり理解すれば、決して難しくありません。この記事では、都市計画の決定権者や手続きの流れ、住民参加の仕組み(提案制度)、そして計画実現のための事業制限や、より身近なエリアでのルールである地区計画について、分かりやすく解説していきます。

この記事を読み終える頃には、「都市計画の決定から事業までの流れが掴めた!」「地区計画のルールもバッチリ!」と自信を持てるようになっているはずですよ。
この記事でわかること
- 都市計画を誰が決定するのか(決定権者)のルール
- 都市計画が決定されるまでの具体的な手続きの流れ
- 住民などが都市計画を提案できる「提案制度」について
- 都市計画事業の段階に応じた建築制限のルール
- 地区計画とは何か、その届出ルールや種類について
街づくりのプランが決まる!都市計画の決定権者と手続きの流れ、提案制度
まず、都市計画区域などが指定された後、そのエリアを具体的にどんな街にしていくのか、そのプラン(都市計画)を決定するプロセスを見ていきましょう。誰が、どのように決めるのでしょうか?
ここからは、街づくりの設計図を作る段階ですね!誰が主導権を握るのか、見ていきましょう。
【誰がどう決める?】都市計画の決定権者の基本ルール(都道府県・市町村・国)
都市計画を決定する権限を持つのは、原則としてその計画が定められる区域がある都道府県または市町村です。
どちらが決定するかは、計画の内容によって役割分担があります。
- 都道府県が決定する主な都市計画:
- 複数の市町村にまたがるような広域的な計画
- 都市計画区域の整備、開発、保全の方針(マスタープラン)
- 区域区分(市街化区域・市街化調整区域の線引き)
- 国や都道府県が設置する広域的な都市施設(高速道路など)
- 市街地開発事業(※原則) など、根幹的・大規模なもの
- 市町村が決定する主な都市計画:
- 上記以外の、より地域に密着した計画
- 用途地域、高度地区、防火・準防火地域などの地域地区
- 主として市町村が設置する都市施設(市町村道、小公園など)
- 地区計画 など、比較的小規模なもの
大枠や広域的なものは都道府県、より身近で細かいものは市町村が決める、というイメージを持つと分かりやすいですね。
ただし、例外もあります。都市計画区域の指定と同様に、計画する区域が2つ以上の都府県にわたる場合は、国土交通大臣が決定権者となります(この場合、関係市町村も一部の都市計画を決定できます)。
もし、市町村が定めた都市計画と、都道府県が定めた都市計画の内容が矛盾(抵触)する場合は、都道府県が定めた都市計画が優先されます。これも重要なルールです。
【計画決定までのステップ】住民意見も反映!都市計画決定の手続きフロー
都市計画は、私たちの生活に大きな影響を与えるものなので、一方的に決められるわけではありません。住民の意見を聞きながら、慎重に手続きが進められます。
<都市計画決定手続きの流れ図(都道府県・市町村)>
(ここに、①原案作成→②公告・縦覧→③決定→④告示という基本的な流れと、各段階での意見聴取や審議会の関与を示すフロー図を挿入するイメージです。都道府県決定と市町村決定で少し異なる点も示します。)
ステップ1:原案作成と意見聴取(公聴会など)
まず、都道府県または市町村が都市計画の「原案」を作成します。この原案作成の段階から、必要に応じて住民の意見を反映させるための措置(公聴会の開催など)が行われます。
特に、後で詳しく説明する「地区計画」などの案を作成する際には、必ず土地所有者などの利害関係人の意見を求めて作成しなければなりません。
計画の初期段階から住民参加の機会があるんですね。
ステップ2:原案の公告・縦覧と意見書の提出
原案がまとまると、その内容を住民などに知らせるために「公告」され、公告の日から2週間、公衆の縦覧(誰でも見られるようにすること)に供されます。
この縦覧期間中に、関係市町村の住民や利害関係人は、その都市計画案に対して意見書を提出することができます。
期間は「2週間」!しっかり意見を言える機会が保障されています。
ステップ3:都市計画審議会を経て計画決定!
提出された意見書などを考慮し、最終的な都市計画案が作成され、いよいよ決定の手続きに入ります。
- 都道府県が決定する場合:
- 関係市町村の意見を聴きます。
- 都道府県都市計画審議会の議決を経ます。
- (国の利害に重大な関係がある場合は、事前に国土交通大臣に協議し、同意を得る必要があります)
- 都市計画を決定!
- 市町村が決定する場合:
- 市町村都市計画審議会の議決を経ます。
- (都道府県が定めた都市計画に適合させるため、事前に都道府県知事に協議する必要があります。ただし、知事の同意までは不要です!)
- 都市計画を決定!
どちらの場合も「都市計画審議会」という専門家の意見を聞く機関の議決が必要なんですね。また、市町村決定の際の「知事への協議は必要だが、同意は不要」という点は、ひっかけ問題で狙われやすいので注意しましょう!

審議会や国・都道府県との調整もあって、結構しっかりした手続きなんですね。
ステップ4:告示で効力発生!
都道府県または市町村は、都市計画を決定したら、その旨を「告示」します。この告示があった日から、その都市計画の効力が発生します。
【住民発の街づくり?】都市計画の提案制度とは?
都市計画は行政が決めるのが基本ですが、住民や事業者側から「こんな街づくりをしてほしい!」と都市計画の決定や変更を提案できる制度もあります。
<提案できる人>
- その区域内の土地所有者や借地権者
- まちづくりNPO法人
- 都市再生機構(UR)、地方住宅供給公社 など
<提案できる場所>
- 都市計画区域または準都市計画区域内
<提案の主な要件>
- 0.5ha(ヘクタール)以上(地区計画等はもっと小さくても可)の一体的な区域であること
- 提案内容が、都市計画に関する法令上の基準に適合していること
- 提案区域内の土地所有者等の3分の2以上の同意(人数・面積の両方)があること
一定の要件を満たせば、住民側から積極的に街づくりに関わることができる制度なんですね。
都市計画事業の制限と都市施設、きめ細かな地区計画
都市計画が決定されただけでは、街は変わりません。その計画を実現するための具体的な工事など(=都市計画事業)が行われて初めて、新しい道路ができたり、街が再開発されたりします。ここでは、その都市計画事業に関するルールと、関連する都市施設、地区計画について見ていきましょう。
都市計画事業とは?2つの種類と大まかな流れ
都市計画事業とは、決定された都市計画を実現するために行われる事業のことです。大きく分けて以下の2種類があります。
- 都市計画施設の整備に関する事業:都市計画で定められた道路、公園、下水道、学校などの都市施設を実際に作る事業。
- 市街地開発事業:土地区画整理事業や市街地再開発事業など、面的な広がりをもって市街地を開発・整備する事業。
市街地開発事業は、原則として市街化区域または非線引都市計画区域内で行われます。
計画から工事開始までの流れ
都市計画事業は、計画決定から実際の工事開始まで、いくつかの段階を踏みます。この流れと、各段階での区域の呼び方、そして適用される建築制限の違いを理解することが非常に重要です。
<都市計画事業の大まかな流れと建築制限>
① 市街地開発事業等予定区域の指定 (そろそろ事業を始めますよ、という予告段階)
↓
② 都市計画の決定 (都市計画施設の区域、市街地開発事業の施行区域が正式に決まる段階)
↓
③ 都市計画事業の認可・承認・告示 (事業を行う事業者や内容が正式に決まり、工事開始OK!となる段階 → この段階から「事業地」と呼ばれる)
↓
④ 工事開始
段階によって呼び名とルールが変わるんですね。ここがややこしい!
そうです、この段階を意識しないと、建築制限のルールで混乱してしまいます。次に詳しく見ていきましょう。
(※市街地開発事業に関する都市計画の決定権者は、原則として都道府県、小規模なものは市町村です。)
【重要!】都市計画事業の段階別 建築制限ルールを完全マスター
都市計画事業が計画・実行される区域内では、事業の妨げになるような建築行為などが制限されます。この制限は、事業の進捗段階によって内容が変わってきます。
<都市計画事業 段階別 建築制限 比較表>
事業の段階 | 区域の呼び名 | 主な制限対象行為(原則、知事等の許可が必要) | 許可が不要な主な行為 |
---|---|---|---|
① 計画準備段階 | 市街地開発事業等 予定区域 | ・土地の形質変更 ・建築物の建築 ・工作物の建設 | ・軽微な行為 ・非常災害応急措置 ・都市計画事業の施行として行う行為 |
② 計画決定段階 | 都市計画施設の区域 市街地開発事業の施行区域 (施行予定者が定められていない場合) | ・建築物の建築のみ | ・軽易な行為 ・非常災害応急措置 ・都市計画事業の施行として行う行為等 |
都市計画施設の区域 市街地開発事業の施行区域 (施行予定者が定められている場合) | ・土地の形質変更 ・建築物の建築 ・工作物の建設 (=①予定区域と同じ) | ・軽微な行為 ・非常災害応急措置 ・都市計画事業の施行として行う行為 | |
③ 事業開始後 | 事業地 (認可・承認の告示後) | ・土地の形質変更 ・建築物の建築 ・工作物の建設 ・移動容易でない 物件(5t超)の設置・堆積 ・非常災害応急措置も原則許可要! | ・都市計画事業の施行として行う行為 |

段階ごとに全然ルールが違いますね!特に②計画決定段階の施行予定者の有無は要注意!
①計画準備段階「市街地開発事業等予定区域」での制限
「そろそろここで市街地開発事業を始めますよ」という予定区域が定められると、土地の形質変更、建築物の建築、工作物の建設を行うには、原則として都道府県知事(または指定都市等の長)の許可が必要になります。
ただし、通常の管理行為や軽微な行為、非常災害のための応急措置などは許可不要です。
②計画決定段階「都市計画施設の区域・市街地開発事業の施行区域」での制限(施行予定者の有無で違う!)
都市計画が正式に決定され、事業が行われる区域(施行区域)が定められた段階です。ここでの制限は、「施行予定者」が決まっているかどうかで大きく異なります!
- 施行予定者がいない場合:
- 制限対象は「建築物の建築」のみ!土地の形質変更や工作物の建設は許可不要です。
- 許可基準も緩やかで、階数が2以下(地階なし)で容易に移転・除去できる木造などの建物で、都市計画に適合していれば、知事は許可しなければなりません。
- <理由>まだ事業が本当に始まるか不確定な段階なので、制限を緩やかにしているんですね。
- 施行予定者がいる場合:
- 制限内容は、①の予定区域と同じになります(土地の形質変更、建築・工作物の建設に許可が必要)。
- <理由>施行予定者が決まり、事業開始がより確実になったため、制限を強化しています。
施行予定者がいない場合の制限が緩いこと、特に建築物の建築のみが対象で、許可基準も緩い点は、試験で頻出です!
③事業開始後「事業地」での厳しい制限
都市計画事業の認可・承認の告示があり、いよいよ事業が本格的にスタートすると、区域は「事業地」と呼ばれ、制限が最も厳しくなります。
- ①や②(施行予定者あり)で許可が必要だった行為に加えて、「移動の容易でない物件(重さ5トン超)の設置・堆積」も許可の対象になります。
- さらに、①や②では許可不要だった「非常災害のための応急措置」も、原則として許可が必要になります!
事業地内では、うっかり応急措置もできない、と覚えておきましょう。
【街のインフラ】都市施設とは?どこに何を定める?
都市施設とは、都市計画で定められる、私たちの生活や都市活動に不可欠な公共的な施設のことです。
<主な都市施設の例>
- 交通施設:道路、都市高速鉄道、駐車場、自動車ターミナルなど
- 公共空地:公園、緑地、広場など
- 供給施設・処理施設:水道、電気供給施設、ガス供給施設、下水道、汚物処理場、ごみ焼却場など
- その他:河川、教育文化施設(学校、図書館など)、医療・福祉施設(病院、保育所など)、市場、と畜場、火葬場 など
<ポイント>
- 都市施設は、必要があれば都市計画区域外にも定めることができます(道路などが典型例)。
- 道路、公園、下水道の3つは、基幹的な施設として特に重要視され、市街化区域及び非線引都市計画区域には、原則として必ず定めなければなりません。
- 住居系の用途地域(低層住居専用~住居地域、準住居は除く)には、義務教育施設(小学校・中学校)を定めなければなりません。
【身近な街づくりルール】地区計画とは?届出ルールと種類を解説
地区計画とは、都市計画の中でも、もっと小さい区域(街区レベル)を対象として、その地区の特性に合わせたきめ細かな街づくりルールを定めるものです。
「〇〇丁目の一部エリアを、もっと歩きやすくて緑豊かな街並みにしよう」「この商店街を、統一感のあるデザインで活性化させよう」といった、より身近なレベルの計画です。
地区計画が定められる場所(準都市計画区域はNG!)
地区計画は、どこにでも定められるわけではありません。
- 用途地域が定められている土地には、原則として定めることができます。
- 用途地域が定められていなくても、一定の要件を満たせば定めることができます(例:市街化調整区域内の特定の開発区域など)。
- 準都市計画区域には、地区計画を定めることはできません!これは重要なポイントです。
地区計画区域内でのルール(30日前届出、許可不要、勧告あり)
地区計画が定められた区域内で、以下の行為をする場合は、原則として、その行為に着手する日の30日前までに、行為の種類や場所などを市町村長に届け出なければなりません。
- ① 土地の区画形質の変更
- ② 建築物の建築または工作物の建設
- ③ 建築物等の用途の変更
- ④ 建築物等の形態または意匠の変更 など
<重要ポイント>
- 必要なのは「許可」ではなく「届出」です!
- 届出先は「都道府県知事」ではなく「市町村長」です!
- 届出を受けた市町村長は、その計画が地区計画に適合しないと認める場合、設計の変更などを「勧告」することはできますが、工事の中止などを強制的に「命令」することはできません。

許可よりは手続きが簡単だけど、ルールを守ってもらうための仕組みなんですね。
地区計画にも種類がある?(防災、歴史的風致、沿道、集落)
地区計画には、一般的なものの他に、特定の目的を持ったいくつかの種類があります。(名称を知っておく程度でOKです)
- 防災街区整備地区計画:地震や火災時の延焼防止、避難路確保などを目的とした計画。
- 歴史的風致維持向上地区計画:歴史的な街並みや趣を維持・向上させるための計画。
- 沿道地区計画:幹線道路沿いなどで、交通騒音の低減や良好な環境形成を図る計画。
- 集落地区計画:市街化調整区域内の集落などで、農業と居住環境の調和を図る計画。
地区計画で定める特別な区域(再開発等促進区、開発整備促進区)
地区計画の中には、さらに特定の目的のために「再開発等促進区」や「開発整備促進区」といった区域を定めることがあります。
- 再開発等促進区:
- 用途地域内のみで定めることができる。
- 土地の高度利用と都市機能の増進を図るため、一体的な再開発(例:六本木ヒルズのような大規模複合開発)を促進する区域。
- 容積率などの制限が緩和されることが多い。
- 開発整備促進区:
- 定められる用途地域が限定されている(第二種住居、準住居、近隣商業、工業地域、または用途地域の指定のない区域(市街化調整区域を除く))。
- 大規模な集客施設(1万㎡超の店舗、映画館、展示場など)の整備を促進し、商業などの利便性を高める区域。
特に開発整備促進区は、定められる用途地域が少し特殊なので注意が必要です(準工業地域は含まれず、近隣商業地域や工業地域が含まれる)。
まとめ
今回は、都市計画の決定プロセスから、計画実現のための都市計画事業の制限、そして身近な街づくりルールである地区計画まで、幅広く解説しました。手続きの流れや段階に応じた制限の違い、決定権者のルールなど、覚えるべきポイントが多くありましたが、それぞれの制度の目的や背景を理解することで、より記憶に残りやすくなったのではないでしょうか。
都市計画は、街の将来像を描き、それを実現していくための重要な仕組みです。宅建試験合格はもちろん、不動産に関わる者として、これらの基本的なルールを理解しておくことは非常に大切です。
最後に、今回の学習内容のポイントをまとめます。
- 都市計画の決定権者:原則は都道府県or市町村。広域・根幹は都道府県、身近・小規模は市町村。2都府県以上は国交大臣。抵触時は都道府県優先。
- 決定手続き:①原案作成(意見聴取) → ②公告・縦覧(2週間、意見書) → ③決定(審議会経由、知事協議等) → ④告示(効力発生)。
- 提案制度:土地所有者等が一定の要件(面積、基準適合、2/3同意)を満たせば計画を提案可能。
- 都市計画事業の制限:段階(①予定区域、②施行区域(施行予定者有無)、③事業地)で制限内容が異なる。特に②施行予定者なしの場合の制限緩和、③事業地の厳しい制限に注意。
- 都市施設:道路・公園・下水道は市街化区域等で必須。義務教育施設は住居系で必須。区域外でも設定可。
- 地区計画:小さい区域のきめ細かな計画。用途地域内等が対象(準都市計画区域は×)。行為着手30日前に市町村長へ届出(許可不要、勧告あり)。
- 地区計画の特別区域:再開発等促進区(用途地域内、大規模再開発)、開発整備促進区(特定用途地域等、大規模集客施設)。

複雑な部分も多かったと思いますが、諦めずに一つずつ確実にマスターしていきましょう。