【宅建士】8種制限その①クーリングオフ。契約したけどやっぱりやめたいを可能にする制度

宅建業法

大きな買い物である不動産。「よし、契約するぞ!」と決めたものの、後になって「本当にこの物件でよかったのかな…」「もっといい物件があったんじゃ…」「勢いで契約しちゃったけど、冷静に考えたら支払いが不安…」なんて、急に不安になってしまうこと、ありますよね? 一度サインしちゃったら、もう後戻りはできないの…?

いえいえ、諦めないでください! 実は、宅建業法には、一定の条件を満たせば、一度結んだ契約の申込みを撤回したり、契約そのものを解除したりできる「クーリング・オフ」という制度があるんです! まさに、消費者を守るための強い味方!

でも、このクーリング・オフ、「いつでも」「どんな契約でも」使える万能薬ではありません! 使える条件や期間、場所などが細かく決まっているんです。「知らなかった!」では済まされない、重要なルール。今回は、この宅建業法のクーリング・オフ制度について、どんな場合に使えるのか(そして使えないのか!)、どうやって使うのか、使ったらどうなるのか、という点を徹底的に解説していきます!

AYUMI
AYUMI

こんにちは! 不動産会社勤務の宅建士です! クーリング・オフって言葉は有名だけど、不動産取引でのルールはちょっと特殊なんです。しっかり理解して、いざという時に備えましょう!

この記事でわかること

  • 宅建業法におけるクーリング・オフ制度の目的と基本的な仕組み
  • クーリング・オフができない具体的なケース(場所と時期)
  • クーリング・オフできるかどうかの判断ポイント(特に申込み場所!)
  • クーリング・オフの正しい手続き方法(書面!発信主義!)
  • クーリング・オフした場合の強力な効果(白紙撤回、全額返金など)

知っておきたい!宅建業法のクーリング・オフ制度とは?

なぜ必要?クーリング・オフ制度の目的

そもそも、なんでこんな「契約を後からやめられる」制度があるのでしょうか?

それは、不動産取引、特に宅建業者が自ら売主となるようなケースで、消費者が不意打ち的に勧誘されたり、冷静な判断がしにくい状況で契約(や申込み)をしてしまったりするのを防ぐためなんです。

例えば、休日にふらっと立ち寄ったモデルルームや、街で声をかけられた現地のテント張りの案内所などで、営業マンの熱心なトークに乗せられて、ついその場の雰囲気で高額な不動産の申込みをしてしまった…なんてこと、あり得ますよね。

そういう場合に、「ちょっと待った!家に帰って、もう一度冷静に考え直す時間を与えましょう」というのが、この制度の趣旨。「頭を冷やす(Cooling Off)」ための期間、という意味合いが込められています。だから、消費者を保護するための、とっても大事な制度なんですね。

適用される基本条件|全ての契約で使えるわけじゃない!

ただし、このクーリング・オフ、どんな不動産取引でも使えるわけではありません! 原則として、以下の基本的な条件を満たしている場合に適用されます。

  1. 売主が「宅地建物取引業者」であること:
    • 不動産のプロである宅建業者が売主の場合に、知識の少ない一般消費者を保護するための制度です。個人間売買など、売主が宅建業者でない場合は適用されません。
  2. 買主が「宅地建物取引業者以外」であること:
    • プロである宅建業者同士の取引には適用されません。あくまで一般消費者などを守るためのルールです。
  3. 申込みまたは契約締結の場所が「事務所等以外の場所」であること:
    • これが一番のポイント! 冷静な判断がしにくいと考えられる場所での契約が対象です。「事務所等」とは具体的にどこを指すのか、どこが「以外」なのかは、後で詳しく説明しますね!
  4. 対象となる契約が「宅地または建物の売買契約(またはその申込み)」であること:
    • 売買契約が対象です。賃貸借契約にはクーリング・オフ制度はありません!

まずはこの4つの基本条件、「売主が業者」「買主が業者以外」「場所が事務所等以外」「売買契約」をしっかり押さえてくださいね! これが大前提です!


ここが最重要!クーリング・オフが「できない」ケースを覚えよう!

さて、クーリング・オフが使えるかどうかを判断する上で、一番効率的なのは、「できる場合」を覚えるのではなく、「クーリング・オフができない場合(適用除外)」を覚えてしまうことです!

「これに当てはまらなければ、クーリング・オフできるんだな!」と考えるのが、試験対策としてもおすすめです!

クーリング・オフができないケースは、主に「場所」に関する要件と「時期」に関する要件があります。

覚え方のコツ!「できない場合」以外は「できる」!

しつこいようですが、これが一番大事! これから説明する「クーリング・オフできない場所」と「クーリング・オフできない時期」に当てはまらなければ、原則としてクーリング・オフは可能です!

【場所的要件】ここで契約(申込み)したらクーリング・オフできない!

以下の場所で、売買契約の申込みまたは契約締結をした場合は、買主は冷静な判断ができる状況にあったと考えられるため、クーリング・オフはできません。

  1. 宅建業者の「事務所」
    • これは分かりやすいですね。宅建業者の本店や支店など、しっかりした事務所で手続きをした場合は、クーリング・オフできません。
    • ※他の宅建業者に媒介や代理を依頼している場合の、その業者の事務所も含まれます。
  2. 「案内所等」のうち、以下の要件を満たす場所
    • モデルルームや現地案内所など、「案内所」と呼ばれる場所でも、一定の条件を満たすと「事務所等」と同じ扱いになり、クーリング・オフができなくなります。その条件とは…
      • ① 土地に定着する建物内に設けられていること。
        • <ポイント> プレハブやモデルハウスでも、基礎があって簡単に動かせないような「土地に定着」していればOKです。逆に、テント張りの案内所などは土地に定着していないので、そこで申し込んだ場合はクーリング・オフできます
      • ② 継続的に業務を行うことができる施設であること。
      • ③ 専任の宅地建物取引士を置くべき場所として、国土交通省令で定められていること。(一団の宅地建物の分譲を行う案内所などが該当します)
        • <注意> ここで重要なのは、実際に専任の宅建士がその場にいなくても、あるいは案内所の設置届出をしていなくても、標識を掲げていなくても、「法律上、専任の宅建士を置くべき場所」に該当すれば、クーリング・オフはできないということです! あくまで形式的に判断されます!
  3. 買主が「自ら申し出て」指定した、買主の「自宅」または「勤務先」
    • 買主自身の希望で、「家(または会社)に来て説明・契約してほしい」と申し出た場合は、買主が場所を選んでいるので、冷静な判断ができたと考えられ、クーリング・オフはできません。
      • <NG> ただし、宅建業者の方から「ご自宅に伺いましょうか?」などと持ちかけて、買主の自宅等で申込みや契約をした場合は、買主からの「自らの申し出」ではないので、クーリング・オフできます! ここ、ひっかけ注意です!

<クーリング・オフできる場所・できない場所 まとめ>

場所クーリング・オフ備考
宅建業者の事務所(本店・支店)× (できない)冷静な判断ができる場所
モデルルーム(土地に定着、専任宅建士設置義務あり)× (できない)事務所等と同じ扱い
買主が 自ら申し出て 指定した自宅× (できない)買主が場所を選んでいる
買主が 自ら申し出て 指定した勤務先× (できない)買主が場所を選んでいる
喫茶店、レストラン、ホテルのロビー○ (できる)事務所等以外の場所
テント張りの案内所○ (できる)土地に定着していない
買主の自宅(業者が訪問を申し出た場合)○ (できる)買主からの「自らの申し出」ではない
知人の家、親戚の家○ (できる)事務所等以外の場所(買主の自宅・勤務先ではない)

【時間的要件】このタイミングを過ぎたらクーリング・オフできない!

場所の要件をクリアしていても、以下のいずれかのタイミングを過ぎてしまうと、もうクーリング・オフはできなくなります。

  1. 宅建業者から「書面で」クーリング・オフについて告げられた日から起算して「8日間」を経過したとき
    • 宅建業者は、クーリング・オフができる買主に対して、「この契約はクーリング・オフできますよ。やり方はこうですよ。」といった内容を書面で告知(説明)することができます。
    • この書面による告知を受けた日を1日目として、8日間がクーリング・オフできる期間です。この期間を過ぎると、もう解除はできません。

逆に言えば、業者から書面で告知されない限り、この8日間のカウントはスタートしません! つまり、告知がなければ、いつまでも(理論上は)クーリング・オフできる可能性がある、ということです!

<NG> ただし、宅建業者にクーリング・オフ制度について告知する義務はありません。告知しなければ8日間の期間制限が始まらない、というだけです。

  1. 買主が物件の「引渡しを受け」、かつ、「代金の全部を支払った」とき
    • 物件が買主に引き渡され、さらに、買主が売買代金の全額を支払い終えた場合は、もう取引は完了したとみなされ、クーリング・オフはできなくなります。
    • 「引渡し」と「代金全額の支払い」の両方が完了している必要があります。どちらか一方だけでは、まだクーリング・オフは可能です!

判断基準は「申込み場所」!契約場所じゃない!

クーリング・オフできるかどうかを判断する上で、めちゃくちゃ大事なのが、「どこで最初に『買います!』という意思表示(=申込み)をしたか」という点です!

たとえ契約書にサインした場所がクーリング・オフできない事務所だったとしても、最初の申込みをした場所が喫茶店やテント張りの案内所など、クーリング・オフできる場所であれば、その契約はクーリング・オフの対象になります!

<例>

  • 喫茶店で物件の説明を受け、申込み → 後日、業者の事務所で契約クーリング・オフできる!
  • 業者の事務所で物件の説明を受け、申込み → 後日、喫茶店で契約クーリング・オフできない!
AYUMI
AYUMI

最初にどこで申し込んだかが、運命の分かれ道なんですね! これはしっかり覚えておかないと!


クーリング・オフする!その方法と絶大な効果

もし、クーリング・オフができる条件に当てはまり、「やっぱり契約をやめたい!」となった場合、どうすればいいのでしょうか? その方法と、クーリング・オフした場合の効果を見ていきましょう。

どうやってやるの?クーリング・オフの方法

クーリング・オフの意思表示は、後で「言った」「言わない」のトラブルにならないように、必ず書面で行う必要があります。

  • 方法: ハガキや手紙でOKです。後々の証拠を残すためには、内容証明郵便で送るのが最も確実です。
  • 記載内容: どの契約を解除したいのかが分かるように、契約年月日、物件の所在地、売主(業者)名、買主の氏名・住所などを記載し、「クーリング・オフにより契約を解除(または申込みを撤回)します」という意思を明確に表示します。
  • 効力発生時期: ここも重要! クーリング・オフの効力は、その書面を「発信した時」に発生します(発信主義)。つまり、郵便ポストに投函した時点、郵便局の窓口で差し出した時点で、もう効力が発生しているんです! 業者にその書面が届いた時(到達主義)ではありません。
    • 例:8日目の夜にポストに投函 → 業者に届いたのは10日目 → セーフ! クーリング・オフは有効です!

電話や口頭での申し出は無効です! 必ず書面で、証拠が残る形で行いましょう!

クーリング・オフしたらどうなる?その効果

無事にクーリング・オフが有効に行われた場合、その効果は絶大です!

  1. 契約は完全に白紙撤回!
    • 申込みの撤回、または契約の解除となり、契約は最初からなかったことになります。
  2. 業者は受領した金銭を全額返還!
    • 宅建業者は、既に受け取っている手付金や申込金などの金銭を、全額、速やかに買主に返還しなければなりません。利息などを差し引くことも許されません。
  3. 業者は損害賠償や違約金を一切請求できない!
    • クーリング・オフされたことによって業者に損害が発生したとしても、業者は買主に対して損害賠償や違約金の支払いを一切請求することはできません
  4. 不利な特約は無効!
    • もし契約書の中に、「クーリング・オフをした場合は違約金として〇〇円支払う」とか、「手付金は返還しない」といった、買主にとって不利になるような特約が定められていたとしても、その特約は全て無効となります!

クーリング・オフは、法律で認められた消費者の非常に強い権利です! 業者はこれに対してペナルティを課したり、妨害したりすることは一切できません!

業者側の視点も少し…

一方で、宅建業者としては、クーリング・オフされる可能性がある取引(特に事務所等以外での契約)を行う際には、そのリスクを十分に理解しておく必要があります。安易な契約締結は避け、顧客が十分に納得した上で判断できるよう、丁寧な説明と適切な場所での手続きを心がけることが求められますね。


まとめ

宅建業法のクーリング・オフ制度、しっかり理解できましたか? 不安な気持ちで契約してしまった消費者を守るための、大切なセーフティネットです。

最後に、重要ポイントをまとめます!

  • クーリング・オフとは?:一定条件下で、売買契約の申込み撤回や契約解除が無条件でできる制度(売主が業者、買主が非業者、場所が事務所等以外など)。
  • できない場合(適用除外)を覚える!
    • 場所:業者の事務所、②土地に定着した一定の案内所等(専任宅建士設置義務場所)、③買主自ら申し出た自宅・勤務先
    • 時期:書面告知から8日経過、②引渡し完了 かつ 代金全額支払完了
  • 判断基準: 「申込み」の場所が重要!契約場所ではない!
  • 方法: 必ず書面で!効力は発信時に発生!
  • 効果: 契約は白紙に!業者は全額返金義務!業者は損賠・違約金請求不可!買主に不利な特約は無効

クーリング・オフは、使える条件や期間が限られています。もし「使えるかも?」と思ったら、すぐに専門家(宅建業者や消費生活センター、弁護士など)に相談することも大切ですよ。試験対策としては、特に「できない場合」の要件を正確に覚えることが合格への近道です!

AYUMI
AYUMI

クーリング・オフのルール、これでバッチリですね! いざという時のために、しっかり知識を身につけておきましょう!

この記事を書いた人
AYUMI

大学卒業後、2007年大手不動産企業に入社、2009年宅建士試験に合格(合格証明番号:09130433)。
営業業務を経て、広報担当として広報誌業務に従事。累計300人以上の不動産経営者、営業スタッフに取材執筆を実施。
家族は両親と姉。趣味は映画鑑賞、スポーツ観戦ほか。

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