民法の「物権」の分野、特に「担保物権」って、なんだか種類が多くてややこしいですよね。「抵当権」はよく聞くけど、「留置権(りゅうちけん)」?「質権(しちけん)」?「先取特権(さきどりとっけん)」?って、一体何がどう違うの?って混乱していませんか?さらに「物上代位(ぶつじょうだいい)」なんて言葉が出てくると、もうお手上げ…なんて方もいらっしゃるかもしれませんね。

担保物権、私も最初はチンプンカンプンでした…!
今回は、そんな担保物権の中でも、抵当権以外の重要な権利である「留置権」「質権」「先取特権」、そしてそれらに関連する「物上代位」について、基本からしっかり解説していきますよ!
担保物権は、お金を貸した側(債権者)が、もし返してもらえなかった場合に備えて、債務者や第三者の財産から優先的に弁済を受けるための権利です。それぞれの権利に特徴があって、どんな場合に成立して、どんな効力があるのか、違いを理解しておくことが宅建試験の攻略には欠かせません。
この記事では、「留置権」「質権」「先取特権」それぞれの基本的な仕組みや具体例、効力、そして「物上代位」という重要な性質について、解説していきます。
<この記事でわかること>
- 留置権とは何か、どんな場合に成立し、どんな効力があるか理解できる
- 質権・先取特権とは何か、それぞれの特徴と違いの対策がわかる
- 担保物権の重要な性質「物上代位」とは何か、どの権利に認められるかのポイントが整理できる
- 留置権と他の担保物権の物上代位性の違いがわかる
- 宅建試験で押さえておくべき担保物権の基礎知識が明確になる
払うまで返さない!「留置権」の仕組みと具体例、注意点
まずは、比較的イメージしやすいかもしれない「留置権」から見ていきましょう。言葉の通り、「物を留めて置く権利」なんです。

「留置」って聞くと、ちょっと怖いイメージもあるかもしれませんが、民法上の権利なんですよ!
留置権とは? – 代金もらうまで物をキープできる権利
留置権とは、他人の「物」(これは動産でも不動産でもOKです!)の占有者が、その物に関して生じた債権(例えば、修理代金とか、建物の維持に必要な費用とか)を持っている場合に、その債権の弁済を受けるまで、その物を手元に留め置いておく(つまり、返還を拒む)ことができる権利のことです(民法第295条)。
ポイントは、「その物に関して生じた債権」という部分です。全然関係ない債権のために、たまたま預かっている物を留置することはできません。
具体例でイメージ!時計の修理代金
例えば、あなたが大切な時計を時計屋さんに修理に出したとします。ピカピカに直って戻ってきた!…でも、修理代金を払うのをうっかり忘れて、「先に時計返して!」って言っちゃったとしましょう。
この場合、時計屋さんは、「いやいや、修理代金を払ってくれるまで、この時計はお返しできませんよ!」と主張できます。これがまさに留置権です。時計屋さんとしては、修理したのに代金がもらえないと困っちゃいますよね。だから、代金をもらうまで時計をキープできる、というわけです。
不動産も留置権の対象になる!
上の例は動産(時計)でしたが、不動産(建物や土地)も留置権の対象になります。例えば、アパートを借りている人が、雨漏りを大家さんに代わって自腹で修理したとします。この修理費用は、建物の維持に必要な「必要費」と呼ばれるもので、本来大家さんが負担すべきものです。
もし、大家さんがこの立て替えた修理費用(必要費)をなかなか払ってくれない場合、借りている人は、「費用を払ってくれるまで、このアパートは明け渡しませんよ!」と主張して、退去を拒むことができます。これも留置権の一種なんですね。
留置権者の義務と権利 – 預かっている間のルール
留置権を行使して、他人の物を預かっている人(留置権者)は、ただ持っていれば良いわけではありません。いくつかのルール(義務)がありますし、できること(権利)もあります。
大切に保管する義務(善管注意義務)
まず、一番大事なのは、預かっている物を「善良な管理者の注意をもって」保管しなければならない、という義務です(民法第298条1項)。これを難しい言葉で「善管注意義務(ぜんかんちゅういぎむ)」と言います。
要するに、「自分の物と同じように、いや、むしろそれ以上に丁寧に扱ってくださいね」ということです。ぞんざいに扱って壊したり、価値を下げたりしちゃダメですよ、というお約束ですね。
もし、この善管注意義務に違反して、預かっている物を壊してしまったりすると、損害賠償を請求される可能性がありますし、後述するように留置権自体が消滅してしまうこともあります。
勝手に使ったり貸したりはNG?(原則、承諾が必要)
留置権者は、預かっている物を勝手に使ったり、誰かに貸したり、担保に入れたりすることは、原則としてできません。もしそうしたい場合は、その物の持ち主である債務者などの承諾を得る必要があります(民法第298条2項本文)。
時計屋さんの例で言えば、留置しているお客さんの時計を、勝手に自分で使ったり、別の人に貸したりしちゃダメ、ということです。
ただし、例外があります。それは、その物の「保存に必要な使用」であれば、承諾がなくてもOK、というものです(民法第298条2項ただし書)。
例えば、さっきの不動産の例で、アパートを留置している賃借人が、誰も住まないと家が傷んでしまうから、という理由で、引き続きそのアパートに住み続けるような場合ですね。これは、建物の価値を維持するための「保存行為」と考えられるので、大家さんの承諾がなくても許されることがあります。
Q. 留置権者が勝手に使ったり貸したりしたらどうなるの?
A. 債務者は、留置権者に対して「もう留置権は消滅しましたよ!」と主張して、物の返還を求めることができるようになります(民法第298条3項)。ルール違反にはペナルティがあるんですね。
どんな債権で留置できる?必要費と造作買取請求権
留置権が成立するには、「その物に関して生じた債権」が必要だと説明しましたね。では、建物の賃貸借でよく出てくる「必要費・有益費」と「造作買取請求権」は、それぞれ留置権の根拠になるのでしょうか?
【OK】必要費や有益費の償還請求権なら留置できる!
まず、必要費(雨漏り修理費用など、建物の維持保存に必要な費用)や有益費(建物の価値を高めるために支出した費用、例えば便利な設備を追加した費用など)を、賃借人が大家さんに代わって支払った場合。
賃借人は大家さんに対して、その費用を返してもらう権利(費用償還請求権)を持ちます。この費用償還請求権は、まさに「建物そのものに関して生じた債権」と言えます。
ですから、もし大家さんがこの費用を支払ってくれない場合は、賃借人は「費用を払ってくれるまで建物は明け渡しません!」と、建物を留置することができます。
【NG】造作買取請求権では留置できない!
次に、造作買取請求権です。造作(ぞうさく)とは、建物に取り付けられているけれど、比較的簡単に取り外せるもの、例えば、賃借人が大家さんの同意を得て取り付けたエアコンや畳、建具などを指します。
借地借家法という法律では、一定の条件のもと、賃貸借が終わるときに、賃借人は大家さんに対して、この造作を時価で買い取ってくれるよう請求できる権利(造作買取請求権)が認められています(借地借家法第33条)。
しかし、この造作買取請求権は、「建物そのものに関して生じた債権」とは考えられていません。最高裁判所の判例でも、「造作の代金債権と、建物の引渡し義務との間には、直接的な関連性(これを牽連性(けんれんせい)と言います)がない」と判断されています。
エアコンの代金と、建物自体の価値は別物、というイメージでしょうか。そのため、たとえ大家さんが造作の代金を支払ってくれなくても、賃借人は造作買取請求権を理由にして建物を留置することはできません。残念ながら、「エアコン代払ってくれるまで出ていきません!」は通用しないんですね。
【重要ポイント整理】
- 必要費・有益費償還請求権 → 建物に関して生じた債権 → 留置権 OK
- 造作買取請求権 → 建物に関して生じた債権ではない → 留置権 NG
この違いは、宅建試験で本当によく問われます!しっかり区別して覚えてくださいね!
留置権の重要な特徴 – 物上代位性がない!
最後に、留置権のとても大事な特徴を一つ。それは、「物上代位性(ぶつじょうだいいせい)」がないということです。
物上代位性って何?って思いますよね。これは後で詳しく解説しますが、簡単に言うと、担保にとっていた目的物が、例えば火事で燃えて保険金に変わったり、貸し出されて賃料収入に変わったりした場合に、その保険金や賃料に対しても「私の担保権の効力は及ぶぞ!」と主張できる性質のことです。
他の代表的な担保物権である抵当権、質権、先取特権には、この物上代位性が認められています。しかし、留置権には、この物上代位性がありません。
なぜかというと、留置権は、あくまで「物を手元に留め置く」ことで、相手に「早くお金払わないと物返してもらえないぞ」という心理的なプレッシャーを与えて、間接的に支払いを促す権利だからです。その物の価値そのものを直接支配しているわけではない、という考え方なんですね。だから、物が別の価値(お金など)に姿を変えても、それを追いかけていく力はない、とされています。
担保の王道?「質権」と法律が認める優先権「先取特権」を比較解説
次に、「質権(しちけん)」と「先取特権(さきどりとっけん)」を見ていきましょう。これらも債権を担保するための物権ですが、留置権や、皆さんがよくご存知の抵当権とはまた違った特徴を持っています。

留置権は「返すのを拒む」権利だったけど、質権は「預かる」イメージ、先取特権は「法律が優先してくれる」イメージでしょうか。
質権とは? – 物を預かって担保にする権利
質権(しちけん)とは、債権の担保として、債務者または第三者(物上保証人といいます)から受け取った「物」や「財産権」を占有(つまり預かって手元に置くこと)し、債務がちゃんと返済されるまでそれを留置することができる権利です。そして、もし返済がなかった場合には、その物や財産権を換価(お金に換えること)して、他の債権者よりも優先的に弁済を受けることができる権利でもあります(民法第342条)。
一番身近なイメージは、街にある「質屋さん」かもしれませんね。時計やブランドバッグなどを預けて、お金を借りる、というあのシステムです。質屋さんは、預かった品物(質物)に対して質権を持っている、ということになります。
質権の基本的な性質(付従性、随伴性、不可分性、物上代位性)
質権は、担保物権の基本的な性質をすべて備えています。これは抵当権などとも共通する性質です。
- 付従性(ふじゅうせい): 担保されるべき元の債権(例えば貸したお金)がなければ、質権も存在しません。元の債権が消滅すれば、質権も一緒に消滅します。
- 随伴性(ずいはんせい): 元の債権が他の人に譲渡されると、原則として質権もその債権にくっついて一緒に移転します。
- 不可分性(ふかぶんせい): 元の債権の全額が返済されるまで、質権者は質物全体の価値に対して権利を行使できます。一部だけ返済してもらったからといって、質物の一部だけ返さなければならない、ということにはなりません。
- 物上代位性(ぶつじょうだいいせい): 質物が、例えば壊れてしまって保険金に変わった場合など、その価値が形を変えたもの(価値変形物)に対しても、質権の効力は及びます。これについては後で詳しく説明しますね。
質権の対象になるもの(動産・不動産・権利)
質権の目的物、つまり「質物」になれるものは、意外と幅広いです。
- 動産質(どうさんしち): これが一番ポピュラーですね。時計、宝石、バッグ、カメラなど、動産を目的とする質権です。質屋さんが扱っているのは主にこれです。
- 不動産質(ふどうさんしち): 土地や建物といった不動産を目的とする質権です。ただ、不動産の場合は、占有を移さずに利用しながら担保に入れられる「抵当権」のほうが圧倒的に便利なので、現在では不動産質はほとんど利用されていません。宅建試験でも重要度は低めです。
- 権利質(けんりしち): ちょっと難しいかもしれませんが、「権利」も質権の目的になります。例えば、誰かにお金を貸している権利(貸金債権)や、会社の株主である権利(株式)などを担保に入れることができます。
例(債権質): BさんがAさんにお金を貸しているとします(BはAに対する貸金債権を持っている)。今度はBさんがCさんからお金を借りることになりました。この時、Bさんは、自分が持っている「Aさんに対する貸金債権」を担保として、Cさんに質入れすることができます。この場合、Cさんが質権者、Bさんが質権設定者、Aさんが第三債務者と呼ばれます。
質権成立のポイント – 「引渡し」が必要!
質権が有効に成立するためには、非常に重要な要件があります。それは、目的物の「引渡し」です(民法第344条)。質権者が質物を実際に預かって、占有し続けることが必要なのです。
口約束や契約書だけではダメで、実際に物を引き渡して初めて質権は成立します。これは、質権者が物を占有していることで、「この物には質権が付いていますよ」ということを第三者にも分かりやすく示す(公示する)意味合いもあります。
占有を移す必要があるので、質権設定者はその物を自分で使い続けることができません。これが不動産で抵当権のほうがよく使われる理由の一つでもありますね。
先取特権とは? – 法律が認める「お先にどうぞ」の権利
次に、先取特権(さきどりとっけん)です。これも担保物権の一種ですが、質権や抵当権とは大きく違う点があります。
先取特権とは、法律で定められた特定の種類の債権を持っている人が、特に契約などをしなくても、法律の規定によって当然に、債務者の財産から他の一般的な債権者よりも優先して弁済を受けることができる権利のことです(民法第303条)。「お先にどうぞ」と法律が言ってくれているイメージですね。
法定担保物権 – 契約なしで発生する
先取特権の最大の特徴は、「法定担保物権(ほうていたんぽぶっけん)」であるということです。
抵当権や質権は、通常、お金を貸す人(債権者)と借りる人(債務者)の間で、「この不動産を担保にしますね」「この時計を質に入れますね」といった契約(設定契約)を結ぶことによって発生します。これを「約定担保物権(やくじょうたんぽぶっけん)」と言います。
それに対して、先取特権は、当事者間の契約がなくても、法律が「こういう種類の債権を持っている人には、優先的に弁済を受けられる権利を認めましょう」と定めているので、その条件を満たせば自動的に発生するのです。
なぜ法律がそんなことを決めているかというと、例えば、従業員の給料とか、生活必需品を売った代金とか、社会的に見て「これは優先的に保護してあげないと!」と考えられるような債権について、その回収を確実にしやすくするため、といった政策的な理由があります。
具体例でイメージ!従業員の給料
例を挙げましょう。ある会社が残念ながら倒産してしまいました。この会社には、従業員への未払い給料と、銀行からの借金があります。会社の残った財産を売ってお金に換えた場合、そのお金は、まず従業員に支払われるべきでしょうか? それとも銀行への返済が先でしょうか?
この場合、従業員の給料債権には、法律によって「雇用関係の先取特権」というものが認められています。そのため、従業員は、他の一般債権者である銀行よりも優先して、会社の財産から未払い給料の支払いを受けることができるのです。契約書がなくても、法律が従業員を守ってくれているんですね。
先取特権の基本的な性質(付従性、随伴性、不可分性、物上代位性)
先取特権も担保物権の一種なので、質権と同様に、付従性、随伴性、不可分性、物上代位性の基本的な性質をすべて持っています。物上代位性がある、という点は留置権との大きな違いですね。
先取特権の種類 – 一般と特別(不動産関連)
先取特権には、実はたくさんの種類があります。民法では、大きく「一般先取特権」と「特別先取特権(動産・不動産)」に分類されています。
- 一般先取特権: 債務者のすべての財産(総財産)に対して効力が及ぶものです。生活に密着した、特に保護の必要性が高い債権が多いです。
- 共益の費用:破産手続きなどで、全債権者の共通の利益のためにかかった費用
- 雇用関係:従業員の給料など
- 葬式の費用:遺族の負担を軽減するため
- 日用品の供給:生活必需品の代金など
- 特別先取特権: 債務者の特定の財産の上にだけ効力が及ぶものです。動産に関するものと、不動産に関するものがあります。
- 動産の先取特権:動産の売買代金、旅館の宿泊費、運送賃など。
- 不動産の先取特権:宅建試験ではこちらが特に重要です!
- 不動産賃貸の先取特権:大家さんが、家賃などの債権について、賃借人がその建物内に置いている動産に対して持つ優先権。
- 不動産保存の先取特権:建物の修繕費用など、不動産の価値を維持するためにかかった費用の債権者が、その不動産に対して持つ優先権。
- 不動産工事の先取特権:建物の建築工事の費用(設計・施工など)の債権者が、その工事によって価値が増した不動産に対して持つ優先権。
- 不動産売買の先取特権:不動産を売った人が、売買代金や利息の債権について、その売った不動産に対して持つ優先権。
たくさんの種類があって覚えるのが大変そうですが、宅建試験では特に不動産に関する先取特権(保存・工事・売買)が、抵当権との優先順位などでよく問われます。まずはこの3つをしっかり押さえるのがおすすめです!
物上代位とは?担保物が形を変えても追いかける効力!差押えの重要性
さて、留置権以外の担保物権(質権、先取特権、そして抵当権)に共通する重要な性質として、「物上代位(ぶつじょうだいい)」というものがあると何度か触れてきました。最後に、この物上代位について、もう少し詳しく見ていきましょう。

物上代位、ちょっと難しい言葉だけど、担保を取る側にとってはすごく大事な仕組みなんです!
物上代位の基本的な考え方 – 価値の変形物をキャッチ!
物上代位とは、簡単に言うと、担保の目的物が、売られたり、貸されたり、壊れたり燃えたりして、別の価値(お金や、お金を受け取る権利など)に姿を変えた場合に、担保権の効力が、その新しく生まれた価値の上にも及んでいく、という性質のことです(民法第304条、第350条、第372条などで規定)。
「物の上の代わりに」効力が及ぶ、だから「物上代位」なんですね。
担保権を持っている人(担保権者)は、もともと、その担保目的物の「交換価値(いざとなったらお金に換えられる価値)」を確保しているわけです。だから、その物が形を変えて、別の価値(これを価値変形物といいます)になったとしても、その価値から優先的に弁済を受けられるようにしよう、というのが物上代位の考え方です。
具体例:抵当権と火災保険金
銀行Bが、Aさんの家(建物)に抵当権を設定してお金を貸していたとします。ところが、その家が火事で全焼してしまいました。建物自体はなくなってしまいましたが、Aさんは火災保険に入っていたので、保険会社から保険金が支払われることになりました。
この場合、「建物」という担保目的物の価値が、「保険金を受け取る権利(保険金請求権)」という金銭的な価値に姿を変えたと考えられます。そこで、銀行Bは、抵当権の効力をこの保険金請求権の上に及ぼして(=物上代位して)、他の債権者がもしいたとしても、その人たちより優先して保険金から貸したお金を回収することができるのです。
もし物上代位が認められなかったら、担保に取っていた建物が燃えて無くなった瞬間に、銀行の担保権も意味がなくなってしまいますよね。それでは担保の意味がないので、こういう仕組みが用意されているんです。
物上代位できるものの例(賃料債権など)
物上代位の対象となる価値変形物には、どんなものがあるのでしょうか?代表的な例としては、
- 火災保険金請求権(上記の例ですね)
- 損害賠償請求権(担保物が、例えば交通事故などで第三者によって壊された場合の、その加害者に対する損害賠償請求権)
- 賃料債権(担保に入れている不動産を誰かに貸している場合、その家賃収入を受け取る権利)
- 売買代金債権(担保物を売却した場合の代金を受け取る権利。ただし、どの担保権でも認められるわけではなく、主に動産売買の先取特権などで問題になります。抵当権では、原則として売買代金への物上代位は難しいとされています)
などがあります。特に、抵当権者が抵当不動産の賃料債権に物上代位できる、というのは宅建試験でも超重要ポイントです!大家さんが抵当権の付いたアパートの家賃を滞納している銀行への返済に充てずに使い込んでしまうような場合に、銀行が直接入居者から家賃を取り立てることができる、というイメージですね。
物上代位をするための重要な手続き – 払渡し前の「差押え」
さて、物上代位の権利があるからといって、自動的に価値変形物から回収できるわけではありません。実際に物上代位権を行使するためには、絶対に守らなければならない、とても重要な手続きがあります。
それは、価値変形物である金銭(保険金や賃料など)や物が、債務者(または担保提供者)に払い渡されたり、引き渡されたりする「前」に、その支払請求権などを「差し押さえる」ことです(民法第304条1項ただし書など)。
【超重要!】払渡し・引渡しの「前」に差押え!
例えば、火災保険金が、保険会社から家の持ち主であるAさんに支払われてしまった後では、もう手遅れです!
なぜなら、一度Aさんの手元(銀行口座など)に入ってしまったお金は、Aさんがもともと持っていた他のお金と混ざってしまい、どれが保険金だったのか区別がつかなくなってしまいます(これを「特定性を失う」と言います)。そうなると、もはや特定の「価値変形物」として追いかけることができなくなり、物上代位権を行使することはできなくなってしまうのです。
ですから、担保権者は、保険金や賃料などが支払われる動きを察知したら、それが支払われる前に裁判所の手続きなどを通じて「待った!」をかけ(=差押えを行い)、その支払いを止めて、直接自分に支払うよう求める必要があるのです。
この「払渡し前の差押えが必要」というルールは、物上代位を理解する上で絶対に欠かせない知識ですので、必ず覚えてくださいね!
担保物権と物上代位性の有無まとめ
それでは、これまで見てきた担保物権について、物上代位性が認められるかどうか、最後に整理しておきましょう。
〇 物上代位できる:抵当権、質権、先取特権
皆さんがよく知っている抵当権、そして今回学んだ質権と先取特権。これらはすべて、目的物の「交換価値」そのものを把握することを目的とした担保物権なので、物上代位性が認められています。
担保物権の種類 | 物上代位性 | 主な理由 |
---|---|---|
抵当権 | あり | 目的物の交換価値を把握 |
質権 | あり | 目的物の交換価値を把握(留置的効力+優先弁済的効力) |
先取特権 | あり | 目的物の交換価値から優先弁済を受ける権利 |
× 物上代位できない:留置権
一方、今回最初に学んだ留置権には、物上代位性は認められていません。
担保物権の種類 | 物上代位性 | 主な理由 |
---|---|---|
留置権 | なし | 目的物の留置による間接的な弁済強制が目的(交換価値の把握ではない) |
なぜ留置権には物上代位性がないの?
しつこいようですが、大事なことなので繰り返しますね。留置権は、あくまで「物を返さないぞ」というプレッシャーによって、相手に「早く支払わなきゃ」と思わせることを目的とした権利です。
その物の価値そのものを直接支配しているわけではないので、たとえその物が保険金などの別の価値に変わったとしても、「その保険金も渡さないぞ!」とは言えない、ということなんですね。目的物の「留置」が本質だから、物がなくなったら(価値だけになっても)追いかけられない、と考えると分かりやすいかもしれません。

なるほど、留置権だけ目的が違うから物上代位できないんだ!これでスッキリしました!それぞれの権利の「目的」を考えると、性質の違いも見えてきますね!
まとめ
今回は、宅建民法の担保物権の中から、「留置権」「質権」「先取特権」、そしてそれらに共通する(留置権を除く)重要な性質である「物上代位」について、基本的なところを解説してきました。
最後に、今回の内容をもう一度ポイントだけ整理しておきましょう。
- 留置権:
- 他人の物に関して生じた債権がある場合に、弁済を受けるまでその物を留め置ける権利。
- 善管注意義務がある。勝手な使用は原則NG。
- 必要費・有益費の償還請求権では留置できるが、造作買取請求権では留置できない。
- 目的物の価値そのものを把握する権利ではないため、物上代位性はない。
- 質権:
- 債権の担保として物や権利を預かり占有し、弁済がなければそこから優先弁済を受ける権利。
- 成立には目的物の引渡しが必要。
- 担保物権の基本的性質(付従性・随伴性・不可分性・物上代位性)をすべて持つ。
- 先取特権:
- 法律で定められた特定の債権について、契約なしで当然に認められる優先弁済権(法定担保物権)。
- 一般先取特権(総財産)と特別先取特権(特定財産)がある。不動産関連(保存・工事・売買)が特に重要。
- 担保物権の基本的性質(付従性・随伴性・不可分性・物上代位性)をすべて持つ。
- 物上代位:
- 担保目的物が価値を変えた場合(保険金、賃料など)、その価値変形物にも効力が及ぶ性質。
- 抵当権、質権、先取特権には認められるが、留置権には認められない。
- 権利を行使するには、価値変形物が払い渡される「前」に「差押え」することが必須。
これらの担保物権は、それぞれどんな場合に成立するのか(成立要件)、どんな効力があるのか、そして、特に他の権利(例えば抵当権や他の先取特権)と競合した場合にどちらが優先するのか(優先劣後関係)といった点が、宅建試験ではよく問われます。

抵当権以外にも、個性的な担保物権がたくさんありましたね!それぞれの権利の特徴や違い、そして物上代位の仕組みについて、少しでも「なるほど!」と思っていただけたら嬉しいです。