【宅建士】時効とは?取得時効・消滅時効から完成猶予・更新まで徹底解説!

権利関係

こんにちは!不動産会社で宅建士として働いている私です。宅建の勉強、毎日お疲れ様です!権利関係の学習、進んでいますか?「時効」って、ドラマやニュースで聞くことはあっても、法律上の正確な意味や種類となると、ちょっと複雑でわかりにくいですよね。「取得時効と消滅時効って何が違うの?」「完成猶予?更新?中断じゃないの?」なんて、疑問に思っている方も多いんじゃないでしょうか?

実は、この「時効」の分野、2020年の民法大改正でルールが結構変わったんです!だから、最新の正確な知識を身につけておくことが、宅建試験合格には不可欠なんですよ。時効は、不動産の権利(取得時効)にも、お金の貸し借り(消滅時効)にも関わる、権利関係の超基本かつ重要テーマ

ここでしっかり理解しておけば、試験での得点力アップ間違いなしです!この記事では、時効の基本的な考え方から、取得時効・消滅時効の具体的な要件、そして民法改正で新しくなった完成猶予・更新のルール、さらには時効の援用や放棄まで、図や具体例をたくさん使って、どこよりもわかりやすく解説していきます。

AYUMI
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この記事を読めば、時効に関するモヤモヤがスッキリ解消するはず!一緒に頑張っていきましょう!


この記事でわかること

  • 時効の基本的な考え方(取得時効と消滅時効の違い、遡及効など)
  • 取得時効が成立するための要件と期間(10年・20年)
  • 消滅時効にかかる期間(主観5年・客観10年)と起算点
  • 【民法改正対応】時効の完成猶予・更新の具体的なケースと効果
  • 時効の利益を受けるための「援用」と、その利益をいらないと言う「放棄」のルール

時効のキホンをマスター!取得時効と消滅時効の違いは?宅建試験の重要ポイント

まずは、「時効」という制度の基本的な考え方から押さえていきましょう。どんな種類があって、どういう流れで効果が発生するのか、全体像をつかむことが大切です。

時効ってそもそも何?時間の経過で権利が変わる制度

時効とは、ある事実状態が一定期間継続した場合に、たとえそれが真実の権利関係と異なっていたとしても、その事実状態に合わせて権利関係を変動させる(権利を取得させたり、消滅させたりする)制度のことです。

ちょっと難しい言い方ですが、簡単に言うと、「長い間続いた現実の状態を、法律も尊重しましょう」という考え方に基づいています。

なぜこんな制度があるかというと、

  1. 社会秩序の安定: 長く続いた事実状態を覆すのは、社会的な混乱を招く可能性があるから。
  2. 権利の上に眠る者を保護しない: 自分の権利を長期間行使しない人より、その事実状態を信頼した人を保護しようという考え方。
  3. 証拠の散逸: 長い時間が経つと、昔の権利関係を証明する証拠(契約書など)がなくなってしまうことがあるため、現在の事実状態を基準にした方が合理的。

といった理由があるんです。

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単に時間が経てばいいというわけではなく、ちゃんと理由があって認められている制度なんですね。

時効の2大タイプ!「取得時効」と「消滅時効」

時効には、大きく分けて2つの種類があります。これは絶対に区別して覚える必要がありますよ!

【取得時効】他人のモノが自分のモノに!?

取得時効(しゅとくじこう)とは、他人の物(主に不動産)であっても、一定期間、所有の意思をもって占有し続けることで、その所有権を取得できるという制度です。(民法第162条)

例えば、隣の土地の一部を自分の土地だと勘違いして、長い間、庭として使い続けていた場合、一定の条件を満たせば、その部分の所有権を本当に自分のものにできてしまう可能性があるんです。

AYUMI
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えっ、そんなことがあるんですか!?なんだかすごい制度ですよね。

詳しい要件や期間は後でじっくり解説しますね。

【消滅時効】請求する権利がなくなっちゃう!?借金がチャラに?

消滅時効(しょうめつじこう)とは、権利(債権など)を持っている人が、一定期間その権利を行使しない場合に、その権利が消滅してしまうという制度です。(民法第166条)

例えば、人にお金を貸したのに、長い間「返して!」と請求もせず放置していると、貸したお金を返してもらう権利(債権)自体がなくなってしまう可能性がある、ということです。借りた側からすれば、借金がなくなる(チャラになる)わけですね。

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権利を持っている側も、ちゃんと権利を行使しないとダメだよ、ということですね。

こちらも、どんな権利が、どれくらいの期間で消滅するのか、後で詳しく見ていきましょう。

時効の効果を得るには?「時効完成」と「時効援用」のステップ

時効によって権利を取得したり、消滅させたりするには、2つのステップが必要です。

  1. 時効の完成
    • 法律で定められた時効期間が満了することを「時効が完成する」と言います。
    • 取得時効なら10年または20年、消滅時効なら5年または10年(原則)という期間が過ぎることですね。
  2. 時効の援用(えんよう)
    • 時効期間が満了しただけでは、自動的に権利が変動するわけではありません。
    • 時効によって利益を受ける人が、「時効が完成したので、その利益(権利の取得や消滅)を受けます!」と意思表示をすることが必要です。これを「時効の援用」と言います。(民法第145条)
    • 援用して初めて、時効の効果が確定的に発生するんです。

時効の効果を得るには、「完成」+「援用」が必要!

ただ時間が過ぎるのを待っているだけじゃダメで、ちゃんと「時効です!」って主張しないといけないんですね。

時効の進行をストップ&リセット!「完成猶予」と「更新」って何?【2020年民法改正】

時効期間は、ただ黙って時間が過ぎるのを待つだけではありません。その進行を途中で止めたり、リセットしたりする出来事があります。これが「時効の完成猶予(かんせいゆうよ)」「時効の更新(こうしん)」です。

ここは2020年の民法改正で、「時効の中断」「時効の停止」という言葉から変わった部分です!古い情報と混同しないように注意してくださいね。

  • 時効の完成猶予:
    • 一定の事由が発生した場合、本来の時効期間が過ぎても、一定期間は時効が完成しないようにする制度です。時効のカウントダウンが一時停止するイメージ。
    • 例:時効完成直前に裁判を起こした場合、裁判が終わるまでは時効が完成しない。
  • 時効の更新:
    • 一定の事由が発生した場合、それまで経過した時効期間がリセットされてゼロになり、新たに時効期間が進行し始める制度です。時効のカウントダウンが振り出しに戻るイメージ。
    • 例:裁判で勝訴判決が確定した場合、その時から新たに時効期間がスタートする。

どんな場合に完成猶予や更新が起こるのかは、後ほど詳しく解説します。

時効の効果はいつから?過去にさかのぼる「遡及効」

時効が完成し、援用されると、その効果はいつから発生するのでしょうか?

時効の効果は、時効期間の起算日(カウントが始まった日)にさかのぼって発生します。これを「時効の遡及効(そきゅうこう)」と言います。(民法第144条)

例えば、取得時効の場合、2015年4月1日から占有を開始し、2025年3月31日に10年の時効期間が完成し、その後援用したとします。すると、その土地の所有権は、援用した時点からではなく、占有を開始した2015年4月1日から取得していたことになるんです。

援用した時に権利が動くわけじゃなくて、最初からそうだったことになるんですね!これも大事なポイントです。


取得時効・消滅時効の要件と期間を徹底解説

ここからは、時効の2大タイプ、「取得時効」と「消滅時効」について、それぞれの詳しい要件や期間などを掘り下げて見ていきましょう。宅建試験でよく問われるポイントが満載ですよ!

【取得時効】他人の不動産を手に入れるための条件とは?

他人の物(特に不動産)の所有権を時効によって取得するには、どんな条件が必要なのでしょうか?

取得時効が認められるための3つの要件【所有の意思・平穏公然・占有】

取得時効を主張するには、次の3つの要件をすべて満たす必要があります。(民法第162条)

  1. 所有の意思をもって占有すること
    • 「これは自分のものだ」と思って占有していることが必要です。「借りているだけ」という意思(賃借権などに基づく占有)では、いくら長く占有しても取得時効は成立しません。
    • この「所有の意思」があるかどうかは、占有を始めた原因(権原の性質)から客観的に判断されます。例えば、買ったつもりで占有していれば所有の意思あり、借りたつもりなら所有の意思なし、となります。
  2. 平穏(へいおん)かつ公然(こうぜん)に占有すること
    • 平穏: 暴力などによらず、穏やかに占有していること。
    • 公然: 隠したりせず、オープンに占有していること。
    • 通常、占有している人は、所有の意思・平穏・公然は法律上推定される(あるものとして扱われる)ので、取得時効を争う側が「所有の意思がなかった」「暴力的だった」などを証明する必要があります。
  3. 一定期間占有すること
    • 法律で定められた期間、占有を継続する必要があります。この期間については次に詳しく見ます。
    • 自分で直接占有していなくても、例えば建物を人に貸して、その賃借人が占有している場合(間接占有)でも、占有していることになります

どれくらいの期間が必要?【善意無過失10年/その他20年】占有開始時が基準!

取得時効に必要な占有期間は、占有を始めたときの状況によって2パターンあります。

取得時効の期間

  • 占有開始時に善意(自分のものだと信じ)かつ無過失(そう信じたことに落ち度がない)だった場合:10年間
  • 上記以外の場合(悪意(他人のものと知っていた)、または善意でも過失があった場合):20年間

超重要ポイント:期間の判断基準は、あくまで「占有を開始した時点」です!

例えば、占有開始時に善意無過失で「自分の土地だ!」と思っていた人が、5年後に「あ、これ隣の人の土地だったかも…」と気づいた(悪意になった)としても、最初に善意無過失で始めているので、必要な期間は10年のままです。途中で悪意に変わっても20年になるわけではありません。

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スタート時点が大事なんですね!これはひっかけ問題で出そう!

前の人の占有期間も引き継げる?「占有の承継」とは?

もし、占有している人が途中で変わったら、時効期間のカウントはどうなるのでしょうか?

取得時効の主張者は、自分の占有期間だけでなく、前の占有者の占有期間も合わせて主張することができます。これを「占有の承継(しょうけい)」と言います。(民法第187条第1項)

ただし、前の占有者の占有を合わせて主張する場合は、その占有開始時の状態(善意無過失か、悪意かなど)も引き継ぐことになります。

例1:Aさん(悪意)が15年占有した後、その土地(建物)をBさん(善意無過失)に売却し、Bさんが5年占有した場合。

A(悪意) 占有開始 — 15年占有 —> (Bへ売却) — B(善意無過失) 5年占有 —> 時効完成?

  • Bさんは、Aさんの占有期間(15年)と自分の占有期間(5年)を合わせて主張できます。合計20年ですね。
  • Aさんの占有(悪意)を引き継ぐので、必要な期間は20年です。
  • 結果:Bさんの占有と合わせてちょうど20年になるので、Bさんは取得時効を主張できます。

例2:Aさん(悪意)が5年占有した後、Bさん(善意無過失)に売却し、Bさんがその後占有を続けている場合。

A(悪意) 占有開始 — 5年占有 —> (Bへ売却) — B(善意無過失) 占有継続 —> 時効完成は?

この場合、Bさんには2つの選択肢があります。

  1. Aさんの占有を承継する:
    • Aさんの占有(悪意)を引き継ぐので、必要な期間は20年。
    • Aさんの5年+Bさんの15年=合計20年で時効完成。
  2. 自分の占有だけを主張する:
    • Bさん自身の占有は善意無過失で始まっているので、必要な期間は10年。
    • Bさんが10年間占有すれば時効完成。
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この例だと、Bさんは自分の占有だけで主張した方が早く(10年で)時効が完成しますね!占有を承継するかどうかは、有利な方を選べるんですね。

【消滅時効】権利が消えてしまうまでの期間と起算点

次に、権利(特に債権)が消滅してしまう「消滅時効」について見ていきましょう。いつからカウントが始まって、何年で消滅するのかが重要です。

消滅時効の期間は何年?【主観5年/客観10年】のダブルチェック!

債権(お金を返してもらう権利など)の消滅時効期間は、2020年の民法改正で大きく変わり、原則として次のようになりました。(民法第166条第1項)

債権の消滅時効期間(原則)

  1. 債権者が権利を行使することができることを知った時(主観的起算点)から 5年間 行使しないとき
  2. 権利を行使することができる時(客観的起算点)から 10年間 行使しないとき

⇒ 上記1、2のどちらか早い方が到来した時点で、時効によって債権は消滅します。

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「知った時から5年」と「行使できる時から10年」の、どっちか早い方なんですね!両方の期間をチェックする必要があるんですね。

改正前は、原則10年で、職業別の短期消滅時効(飲食代は1年とか)がたくさんあって複雑でしたが、改正で原則この「5年or10年」に統一されて、だいぶスッキリしました。

いつからカウント開始?消滅時効の「起算点」【債権の種類別】

「権利を行使することができる時」(客観的起算点)とは、具体的にいつのことを指すのでしょうか?これは債権の種類によって異なります。試験でも問われやすいので、しっかり覚えましょう!

<消滅時効の起算点(権利を行使することができる時)の比較表>

債権の種類起算点
(いつからカウント開始?)
備考
確定期限のある債権その期限が到来した時例:「2025年12月31日に返す」→ 2025年12月31日
不確定期限のある債権その期限が到来した時例:「父が死亡したら返す」→ 父が死亡した時
期限の定めがない債権債権が成立した時例:契約書に返済日が書いてない貸金
停止条件付き債権その条件が成就した時例:「試験に合格したら10万円あげる」→ 合格した時
債務不履行による損害賠償本来の債務の履行を請求できる時履行遅滞の場合など。本来の債務と同じ起算点
契約解除による原状回復請求契約を解除した時
(個人間の)返済期限の定めのない金銭消費貸借債権成立後、相当期間が経過した時判例の考え方。すぐに返せとは言えないため
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期限が決まっているものはその期限が来た時、決まってないものは基本的にすぐ、と考えると覚えやすいかもしれませんね。

【要注意】特殊な権利の消滅時効期間【占有回収・遺留分・不法行為】

上記の原則的な債権とは別に、特別な時効期間が定められている権利もあります。宅建試験で特に関係が深いものをいくつか見ておきましょう。

  • 占有回収の訴え(民法第201条第3項)
    • 占有している物を奪われた場合に、それを取り返すための訴え。
    • 占有を奪われた時から1年以内に提起しなければなりません。
  • 遺留分侵害額請求権(民法第1048条)
    • 相続で、法律上最低限もらえるはずの遺産(遺留分)をもらえなかった場合に、多くもらいすぎた人に対して金銭を請求する権利。(※改正前は「遺留分減殺請求権」という名称でした)
    • 相続の開始及び遺留分を侵害する贈与・遺贈があったことを知った時から1年間行使しないとき。
    • または、相続開始の時から10年を経過したとき。
  • 不法行為に基づく損害賠償請求権(民法第724条、第724条の2)
    • 他人の故意・過失によって損害を受けた場合に、加害者に対して損害賠償を請求する権利。これは損害の種類によって期間が異なります。
    • 【物損(物を壊された等)の場合】
      • 被害者等が損害及び加害者を知った時から3年間行使しないとき。
      • または、不法行為の時から20年間行使しないとき。
    • 【人損(人の生命・身体が害された場合)】
      • 被害者等が損害及び加害者を知った時から5年間行使しないとき。(←物損より長い!)
      • または、不法行為の時から20年間行使しないとき。

時効の進行を止める・リセットする!完成猶予と更新の具体例【民法改正対応】

さて、ここからは時効の進行に影響を与える「時効の完成猶予」と「時効の更新」について、具体的にどんな場合に発生するのか、その効果はどうなるのかを詳しく見ていきましょう。民法改正の重要ポイントですよ!

「待った!」をかける【時効の完成猶予】事由と効果

完成猶予は、時効のカウントダウンを一時的にストップさせる効果があります。

裁判を起こしたら?(裁判上の請求など)

  • 訴えの提起など: 裁判所に訴訟を起こしたり、支払督促を申し立てたり、和解や調停を申し立てたりすると、その手続きが終了するまでの間は、時効の完成が猶予されます。(民法第147条第1項)
  • 手続き終了後の猶予: もし、確定判決などを得られずに手続きが終了した場合(訴え却下や取下げなど)でも、そこから6ヶ月間は時効の完成が猶予されます。その間に再度アクションを起こすチャンスがあるわけですね。(同条第2項)

差し押さえや競売をしたら?(強制執行など)

  • 申立て: 強制執行や担保権の実行(競売など)、財産開示手続などを申し立てると、その手続きが終了するまでの間は、時効の完成が猶予されます。(民法第148条第1項)
  • 手続き終了後の猶予: これらも、権利が実現せずに手続きが終了した場合は、そこから6ヶ月間は時効の完成が猶予されます。(同条第2項)

財産を仮に差し押さえたら?(仮差押え・仮処分)

  • 仮差押え・仮処分: 本格的な差押えの前に、相手の財産を仮に押さえる手続きです。これを行うと、その手続きが終了した時から6ヶ月間は、時効の完成が猶予されます。(民法第149条)
  • 仮差押え・仮処分自体が続いている間ではなく、「終了時から」6ヶ月という点が、裁判上の請求などと異なります。

請求書を送ったら?(催告) – 6ヶ月の猶予!更新はされない!

  • 催告(さいこく): 裁判外で「お金を返してください!」と請求することです。内容証明郵便などがよく使われます。
  • 催告をすると、その時から6ヶ月間は、時効の完成が猶予されます。(民法第150条第1項)
  • ただし、催告によって完成が猶予されている間に、再度催告をしても、さらに猶予期間が延長されることはありません!(催告の重ねがけは無意味)(同条第2項)
  • 催告には、時効を「更新」する効力はありません! あくまで一時的な時間稼ぎです。この6ヶ月の間に、裁判を起こすなど、更新につながる次のアクションを起こす必要があります。
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請求書を送るだけだと、ちょっとだけ時間稼ぎができるけど、それだけじゃダメなんですね。

話し合いの約束をしたら?(協議を行う旨の合意) – 書面が必要!

  • 書面による合意: 権利について、当事者間で協議を行う旨の合意が「書面」でされた場合、次のいずれか早い時までの間、時効の完成が猶予されます。(民法第151条)
    1. その合意があった時から1年間
    2. 合意で定められた協議期間(1年未満の場合)
    3. どちらか一方から協議拒絶の通知が書面でされた時から6ヶ月間

この合意による猶予は最長で5年間まで繰り返せます。口約束ではダメで、必ず書面が必要なのがポイントです!

地震や災害が起きたら?(天災等)

  • 天災その他避けることのできない事変: 地震、洪水、戦争などで、時効を止めるための手続き(裁判など)ができない場合。
  • その障害が消滅した時から3ヶ月間は、時効の完成が猶予されます。(民法第161条)

「振り出しに戻る」【時効の更新】事由と効果

更新は、時効期間をリセットし、ゼロから再スタートさせる強力な効果があります。

判決が確定したら?(裁判上の請求の結果)

  • 確定判決等による権利確定: 裁判上の請求などの手続きの結果、権利が確定判決やそれと同等のもの(和解・調停など)によって確定した場合、手続き終了の時から新たに時効期間が進行を開始します(=時効が更新される)。(民法第147条第2項)
  • 裁判で勝訴すれば、時効がリセットされて、またそこから5年or10年のカウントが始まるということです。

強制執行や競売が終わったら?

  • 権利実現による終了: 強制執行や担保権の実行(競売など)の手続きが、権利の満足を得て終了した場合(または権利が実現せずに終了した場合も)、手続き終了の時から新たに時効期間が進行を開始します。(民法第148条第2項)
  • 裁判上の請求も強制執行も、手続きが終わった時に権利が確定したり実現したりすれば「更新」、ダメだったら「6ヶ月猶予」になる、という流れになります。

相手が借金を認めたら?(承認) – これが一番シンプル!

  • 承認: 権利があることを相手方(債務者など)が認めることです。
    • 例:借金の一部を支払う、支払猶予をお願いする、「借金があることは認める」という念書を書くなど。
  • 承認があると、その時から新たに時効期間が進行を開始します(=時効が更新される)。(民法第152条第1項)
  • 承認には、特別な方式は不要です。口頭でも一部弁済でもOK。また、相手方に権利の存在を知っている必要もありません。これが一番シンプルで分かりやすい更新事由かもしれませんね。
  • ただし、承認をする人には、その権利についての処分権限が必要です(例えば、単なる会社の従業員が会社の債務を承認しても無効など)。

完成猶予と更新の違いを図で整理!

<時効の完成猶予・更新事由と効果のまとめ表>

事由効果①(手続き中など)効果②(手続き終了時など)備考
裁判上の請求完成猶予権利確定→更新 / 権利不確定→6ヶ月猶予
強制執行・競売完成猶予権利実現/不実現問わず→更新
仮差押え・仮処分なし終了時から6ヶ月猶予更新はされない
催告6ヶ月猶予なし再度の催告での延長不可。更新はされない
協議行う旨の合意(書面)1年等の猶予なし更新はされない。最長5年まで
天災なし障害消滅時から3ヶ月猶予更新はされない
承認なし承認時から更新処分権限が必要。方式不要
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「催告」や「仮差押え」は更新されない、「承認」は一発で更新される、というあたりが特に重要そうですね!


時効の最終ステップ!援用と放棄のルールを理解しよう

時効期間が完成しても、それだけで自動的に効果が発生するわけではありませんでしたね。最後に、時効の効果を確定させる「援用」と、その効果をあえて受けない「放棄」のルールについて確認しましょう。

時効の利益を受けるための宣言!「時効の援用」とは?

時効の援用(えんよう)とは、時効期間が完成したことによって利益を受ける人が、その利益を受けるという意思表示をすることです。(民法第145条)

この援用があって初めて、取得時効なら所有権が確定的に取得でき、消滅時効なら債務が確定的に消滅します。援用しない限り、権利関係は確定しません。

誰が援用できるの?【援用権者】具体例

では、誰が時効を援用できるのでしょうか?

時効を援用できるのは、「時効によって直接的な利益を受ける者」に限られます。判例なども含めて、具体的には次のような人が挙げられます。

  • 取得時効: 時効によって所有権などを取得する占有者本人
  • 消滅時効:
    • 主たる債務者: 借金などが消滅することで利益を受ける本人。
    • 保証人(連帯保証人含む): 主たる債務が消滅すれば、保証債務も消滅するため。
    • 物上保証人: 他人の債務のために自分の不動産に担保を設定した人。主たる債務が消滅すれば、担保も消滅するため。
    • 抵当不動産の第三取得者: 抵当権付きの不動産を買った人。抵当権の被担保債権(元の持ち主の借金など)が時効で消滅すれば、抵当権も消滅するので、その抹消を求めて時効を援用できます。

【注意】後順位抵当権者は援用できない?

一方で、時効によって間接的に利益を受けるにすぎない人は、原則として援用できません。

後順位抵当権者は、先順位の抵当権の被担保債権が時効になっても、原則としてその時効を援用することはできません。

例えば、1番抵当権者A(債権1000万円)、2番抵当権者B(債権500万円)がいる不動産で、Aの債権が時効になったとしても、Bが「Aの債権は時効だから消してください!」と援用することはできない、ということです。(判例)

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Bさんとしては、Aの抵当権が消えれば自分の配当が増えるので利益があるように思えますが、それは間接的な利益にすぎないと判断されているんですね。

「時効の利益、いりません!」時効利益の放棄とは?

時効によって利益を受けられる状況になっても、「いや、私はその利益はいりません」と言うこともできます。これを「時効の利益の放棄」と言います。

事前に放棄はできない!【事前放棄の禁止】

ここで非常に重要なルールがあります。

時効の利益は、あらかじめ(時効が完成する前に)放棄することはできません!(民法第146条)

例えば、お金を借りる契約書に「たとえ時効期間が過ぎても、時効を主張しません」という特約(時効利益の事前放棄特約)を入れても、その特約は無効です。

なぜなら、もし事前に放棄できるとすると、お金を貸す側(強い立場)が借りる側(弱い立場)に放棄を強制する可能性があり、時効制度の意味がなくなってしまうからです。

時効完成後なら放棄できる!

時効が完成した後であれば、時効の利益を放棄することは自由です。

時効期間が満了した後に、債務者が「時効は完成したけど、やっぱりちゃんと借金は返します」と言って一部を支払ったり、支払猶予をお願いしたりすることは、時効利益の放棄とみなされます。

一度有効に時効利益を放棄すると、もはやその時効を援用することはできなくなります。

連帯債務者の一人が放棄したらどうなる?他の人は援用できる?

もし、連帯債務者(複数人で同じ債務を負い、それぞれが全額の返済義務を負う)のうちの一人が、時効完成後に時効の利益を放棄したら、他の連帯債務者はどうなるのでしょうか?

連帯債務者の一人が時効の利益を放棄しても、その効果は他の連帯債務者には及びません。

つまり、放棄しなかった他の連帯債務者は、依然として時効を援用して自分の債務を消滅させることができます。これは、時効の援用や放棄の効果は、原則としてその人だけに影響するという「相対効(そうたいこう)」の考え方に基づいています。


まとめ

今回は、「時効」について、基礎から応用まで詳しく見てきました。

時効には、権利を得る「取得時効」と権利を失う「消滅時効」の2種類があり、どちらも効果を得るには「時効完成」+「時効援用」が必要でしたね。

  • 取得時効: 所有の意思をもって平穏公然に占有することが要件。期間は占有開始時に善意無過失なら10年、そうでなければ20年。占有の承継も可能。
  • 消滅時効: 債権は原則として「知った時から5年」or「行使できる時から10年」の早い方で消滅。起算点は債権の種類で異なる。不法行為などは特別な期間あり。

そして、2020年の民法改正で大きく変わったのが「時効の完成猶予」と「時効の更新」。

  • 完成猶予: 裁判上の請求(手続き中)、催告(6ヶ月)、協議合意(書面で1年等)、天災(障害消滅後3ヶ月)など。時効完成を一時的にストップ。
  • 更新: 裁判上の請求(権利確定時)、強制執行等(終了時)、承認。時効期間をリセットして再スタート。

最後に、時効の効果を確定させる「援用」は直接利益を受ける者(当事者、保証人、第三取得者など)ができ、時効の利益をいらないと言う「放棄」は時効完成後ならできるけど、事前にはできない、というルールも確認しました。


この記事のポイントまとめ

  • 時効は、時間の経過で権利関係を事実に合わせる制度(取得時効・消滅時効)。
  • 時効の効果発生には「期間満了(完成)」と「意思表示(援用)」が必要。
  • 取得時効の期間は、占有開始時に善意無過失なら10年、その他は20年。
  • 消滅時効の期間は、原則「主観5年/客観10年」の早い方。
  • 【民法改正】時効の進行を止めるのが「完成猶予」、リセットするのが「更新」。
  • 完成猶予事由:裁判(手続き中)、催告(6ヶ月)、協議合意(書面)など。
  • 更新事由:裁判(権利確定時)、承認など。
  • 時効の援用は直接利益を受ける者(当事者、保証人、第三取得者など)が可能。
  • 時効利益の事前放棄は無効。完成後の放棄は可能(相対効)。
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時効は覚えることが多いですが、一つ一つのルールと、特に民法改正のポイントを押さえれば、確実に得点源にできます!図や表を参考に、しっかり復習してくださいね。


この記事を書いた人
AYUMI

大学卒業後、2007年大手不動産企業に入社、2009年宅建士試験に合格(合格証明番号:09130433)。
営業業務を経て、広報担当として広報誌業務に従事。累計300人以上の不動産経営者、営業スタッフに取材執筆を実施。
家族は両親と姉。趣味は映画鑑賞、スポーツ観戦ほか。

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